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サモアにスクラムを選択させた熱気。
外交辞令じゃない「素晴らしいW杯」。 

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金子達仁

金子達仁Tatsuhito Kaneko

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photograph byNaoya Sanuki

posted2019/10/07 20:00

サモアにスクラムを選択させた熱気。外交辞令じゃない「素晴らしいW杯」。<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

豊田スタジアムで行われたサモア戦。ファンの大声援が日本の勝利とボーナスポイントを後押した。

驚いた80分間の熱狂。

 恥ずかしながら、わたしには海外でラグビーの試合を観戦した経験がたったの1回しかない。いまから四半世紀ほど前、パリで行なわれた5カ国対抗のフランス対……どこか。当時『Number』で連載させてもらっていたコラムのネタ探しで、パルク・デ・プランスまで出かけていったのである。

 驚いたことはいくつもあった。サッカーの試合とは客層がまったく違っていたこと。試合前の国歌吹奏で涙を流す選手が何人かいたこと。パリ・サンジェルマンの試合では厳戒体制の敷かれるパルク・デ・プランスが、いたって長閑だったこと──。

 そう、思い出した。あの日のスタジアムは、長閑だったのだ。

 ニュージーランドがそうであるように、フランスもまた、ラグビーの盛んな国である。

 では、ラグビー場の雰囲気は、サッカー場よりも熱狂的だろうか。

 世界的には“シズオカ・ショック”なるフレーズで記憶されていくであろうアイルランド戦の快挙は、清水エスパルスやジュビロ磐田が使用するエコパスタジアムで起きた。いまから振り返ってみても驚きや衝撃に満ちた80分ではあったが、わたしにとってもっとも驚くべきことは、場内の雰囲気が、サッカーの試合よりもはるかに熱狂的だったことだった。

 サムライ・ブルーの試合よりも、はるかに。

あのときの同じ、感染力と爆発力。

 実をいえば、NHKや日本テレビが懸命にルールや用語を解説し、門戸を広げよう、ハードルを下げようと躍起になっている様を、わたしはいささか冷やかな目でみていた。かつてサッカー中継が毎回のように「オフサイドとは何か」を説明していた時代があったが、そのことに効果があったとはとても思えないからである。

 だが、オフサイドの難解さや得点の少なさを理由にサッカーを敬遠していた人たちは、青いレプリカ・ユニフォームに身を包んだ人たちに飲み込まれていった。日本代表の劇的な勝利は、あるいは敗北は、競技を理解してもらおうとする律儀な努力をあっさりと超えた。

 同じことが、いま、ラグビーで起きつつある──いや、起きた。

 あのときと同じように、凄まじい感染力と爆発力を発揮して。

 経験したことのない雰囲気──ニュージーランド人が、いや、日本を訪れている外国人が驚いても不思議ではない。

 豊田スタジアムは、この大会でジャパンが使用する、最初で最後のフットボール専用競技場だった。

 幸運だった、と個人的には思っている。

【次ページ】 終盤、サモアのスクラム選択。

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