ラグビーPRESSBACK NUMBER
サモアにスクラムを選択させた熱気。
外交辞令じゃない「素晴らしいW杯」。
posted2019/10/07 20:00
text by
金子達仁Tatsuhito Kaneko
photograph by
Naoya Sanuki
言うのも聞くのもあんまり好きじゃない。自分が口からでまかせを言っているような気分になるし、相手がこちらに対して心を開いていないようにも感じるから。
外交辞令。
だから、豊田スタジアムの記者会見場でサモアのジャクソンHCが言った言葉を、最初、わたしはほとんどスルーしかけた。
「経験したことのない雰囲気だった。日本は素晴らしいワールドカップをやっている」
ジャクソンHCは、ラグビーを国技とするニュージーランドの生まれである。言ってみれば、本場のご出身。日本やアメリカの野球をよく知る人間が、オリンピックでの野球場の雰囲気に感銘を覚えることなんてありうるだろうか。大相撲の海外公演における雰囲気は、本場所と比較しうるものだろうか。
なのに、本場のラグビーを知る人間が、ラグビー先進国と名乗るにはおこがましい日本の雰囲気を「経験したことがない」ですと?
というわけで、はいはい、ありがとうございます、どこの国に行っても似たようなこと言ってるんでしょ、そういうの要らないですから──で片づけかけたわたしだった。
2002年の似ている雰囲気。
ん?
違和感が走ったのは、レンタカーをスタジアムから1時間半ほど走らせ、日付の変わった名古屋に到着したあたりだった。
そこかしこに、白と赤のジャージを着た人たちがいる。
ほんの10日ほど前は、駅のポスター以外にほとんどワールドカップを感じさせなかった街を、日本代表の勝利と美酒に酔った人たちが練り歩いている。
なんだか、だんだん2002年の雰囲気になってきたな──そう思った瞬間、唐突にジャクソンHCの言葉が甦った。
経験したことのない雰囲気だった? 日本は素晴らしいワールドカップをやっている?
あれって、ひょっとしたら外交辞令なんかじゃなく、純粋な本音だったのでは?