“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
早川史哉、1302日ぶりのJリーグ。
白血病から笑顔のカムバック。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2019/10/07 19:00
2016年3月以来のJリーグ復帰戦。早川史哉は終始、笑顔を絶やさなかった。
サッカーをやってきてよかった。
「スタメン出場が決まってから、ずっと落ち着かない自分がいた。試合前も、試合中もソワソワしている部分があった。実際にピッチに出てみて、視野が狭くなったり、ちょっと慌ててしまったりと、自分の落ち着きのなさを感じました。正直、自分もここまで視野が狭まるとは思っていなかった」
試合前のアップ、ロッカールーム、そして選手入場から90分間戦いきるまで、彼は必死だった。緊張、不安、喜びと感動。彼の過ごした3年半の時間の意義がすべて詰まっていて、公式戦というシビアかつ求めていた環境が次々と自分の中に予想もしない感情と感覚を生み出していく。
「試合のプレッシャーだけではなくて、僕にとってビッグスワンというピッチは何よりも特別な存在なので……。そういう意味ではなかなか冷静さを保つことができなかったです。でも、そういう部分を感じられるということが、ずっとサッカーを頑張ってやってきた結果だと思っているので、サッカーをやってきてよかったなと改めて思いました」
試合後のミックスゾーンで言葉を詰まらせながらも気丈に語る早川。この後に続いた言葉に彼の笑顔の理由が凝縮されていた。
戦うことを実感した激痛。
「前半、ルカオ選手と接触して一回転して腰から落ちた時も、危ないシーンでしたが、あそこで弱腰になりたくなかったし、後半に足裏が足に入った時も、あそこで足を引っ込めたくはなかった。痛みを感じられること自体に大きな喜びがあったので、正直物凄く痛かったけど、僕にとってはかなり嬉しい瞬間でもありました。これが戦うということだな、ピッチに帰ってきたんだな、と実感できる瞬間でした。
僕はチームの代表としてピッチに立って戦っている。その意味を感じながら、自分なりに表現することはできました。そういう痛みもずっと感じることができなかったので、幸せな痛みというか……」。
冷静さを装うための笑顔だけではなく、冷静さを失ってしまうほど求めていた環境に立てた喜び。それを必死でコントロールしながら、彼はピッチを駆け抜けた。