“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
早川史哉、1302日ぶりのJリーグ。
白血病から笑顔のカムバック。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2019/10/07 19:00
2016年3月以来のJリーグ復帰戦。早川史哉は終始、笑顔を絶やさなかった。
追加点を呼び込んだ早川の判断。
右サイドバックとしてスタメン出場をした早川は、開始早々の3分にオーバーラップからクロスを上げるなど、スムーズに試合の入った。1点をリードした20分には早速、早川らしい頭脳的なプレーがチャンスを生んだ。
右サイドでMF戸嶋祥郎からパスを受けると、早川は中央に走り込むFWレオナルドとMF渡邉新太の姿を捉えた。
「レオと新太が動いていたけど、(直接クロスを送り込むのは)ちょっと通る可能性が低いし、タイミングが早すぎるなと思った。前進してから、左に振って、相手の動きをもう一度逆にすることを考えました」
相手のCBとボランチがレオナルドと渡邉の動き出しに反応していることを察すると、わざと中へトラップして相手を食いつかせ、戸嶋にリターンパスを送った。「左に展開しろ」という早川のメッセージ付きのパスを受けた戸嶋は、その通りに左サイドのスペースに走り込んだDF堀米悠斗に大きくサイドチェンジ。堀米の左クロスから渡邉の鮮やかなワントラップシュートがゴールに突き刺さった。
貴重な追加点の裏には早川の味方と相手の全体を視野に入れた冷静な判断があった。
29分にはルーズボールの競り合いから、鹿児島FWルカオに乗り上げるような形で、空中でバランスを崩して、ピッチに腰を強打した。腰を押さえ、倒れ込んだままの姿に一瞬、場内が凍りついた。だが、彼は笑顔で起き上がると、スタッフから水を渡されたときも笑顔だった。2分後には転倒のダメージを感じさせない軽快な動きで、右からのクロスをダイレクトでクリアしてビッグスワンが沸いた。
2度の激しい接触にも笑顔。
後半、チームはゴールを重ね、残り5分の段階で6-0という大差がついた。それでも早川の高い集中力は終盤まで途切れない。
わずかに合わなかったが、86分には左からの堀米のクロスに対し、ゴール前に飛び込んだ。続く、89分には自陣ゴール前でのクリアの際に相手の足裏が右足の甲に入り、担架で外に運び出された。しかし、すでにチームは交代カードを3枚切った後だったからか、痛みを堪えながら再びピッチに戻ってきた。
2度の激しい接触があったが、彼は90分間プレーをやりきった。タイムアップの笛が鳴り響くと、一瞬だけ安堵の表情を見せた後、すぐに笑顔を見せた。
完勝後のスタジアム内一周、そしてサポーターとのセレブレーションとヒーローインタビュー。時には涙ぐむ姿を見せた。だが、それ以外はずっと笑顔だった。
彼にとって一生忘れることのないであろう特別な1日で、最初から最後まで彼の表情を包んでいた笑み。そこには計り知れない思いがあったことだろう。