スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
ラグビーが“見えすぎちゃって”困る。
映像技術は危険さを強調しすぎる?
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byGetty Images
posted2019/10/04 11:40
ラグビーはフィジカルコンタクトがとりわけ激しいスポーツである。安全確保との両立はどんな形になるのだろうか。
オーストラリアが怒った理由。
レフェリーのロマン・ポワット氏(私はこの人のレフェリングがあまり好きではない)が長い時間検討を重ねたが、反則を取られはしたもののシンビンにはならず、ケレビはパッチェルに軽く詫びて一件落着となった。
なぜ、このプレーが審議対象になったのか。
このTMOに関して、オーストラリア・メディアは不快感をあらわにしている。「シドニー・モーニング・ヘラルド」紙は「ニュージーランド人のTMO、サム・スキーン氏が余計な告げ口をした」と報道した。
同紙は、スキーン氏が「肘がのどに向けられている」とポワット氏に進言し、予断を与えたとして不快感をあらわにしている。
オーストラリアとニュージーランドはライバル関係にあるから、こうした論調が出てくる。
試合後、チェイカはこう論評した。
「肉眼で見た分には、たしかに激しいプレーには見えました。ただし反則なのかどうか、よく分からなくなってしまいました。実際、この大会ではルールの運用に関して理解に苦しむ部分があります。いろいろなことを心配しすぎて――あまりにも慎重になりすぎているんじゃないでしょうか」
そしてチェイカはこう締めくくった。
「こうしたラグビーの試合を“作っていく”ものなんでしょうか。それは決して望ましいこととは思えません」
TMOが勝負を決めて欲しくはない。
世界のあらゆる競技で、選手の安全性を確保するのは大きな課題となっている。
ラグビーも例外ではない。統括団体であるワールドラグビーは、安全の確保を行っているというメッセージを発信しなければならない。
ただし、それが行き過ぎればゲームを壊すことになりかねない。
開幕からまもなく2週間が経つW杯、日本の活躍もあって大いに盛り上がっているが、終わったときに、
「あのTMOが勝負を決めた大会だったな」
という総括になって欲しくない。
ワールドラグビー、そしてレフェリーが明確で、誰もが納得できる指針を示せていないなか、混乱が起きないように願うだけだ。