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さくらジャパンに欠けた「ラストピース」。
“元”不動のキャプテン・内藤夏紀が想うこと。 

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別府響(文藝春秋)

別府響(文藝春秋)Hibiki Beppu

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photograph byYuki Suenaga

posted2019/11/30 11:00

さくらジャパンに欠けた「ラストピース」。“元”不動のキャプテン・内藤夏紀が想うこと。<Number Web> photograph by Yuki Suenaga

選手同士全員とハグした時期も。

「やってみて感じたのは、凄くチーム全体のことを考えるようになりました。いまも大変だったなと思いますけど(笑)。それまでは自分のことで精いっぱいというか、自分のプレーさえ良ければそれだけでチームに貢献できると思っていた。だからこそあんまり人に対して何かを言ったりすることもなかったんですけど、周りを見るようになったなぁと思います」

 個人のプレーに終始することなく、チーム全体の和を考える。逆に、だからこそ時には耳の痛いことも言わなければならない。長幼の別なく各々の選手とコミュニケーションを図る――それまで考えることの無かった、そんなことにも意識を向けるようになったという。

「アンソニーの提案もあって、遠征とかで朝起きて散歩をするときに選手同士全員とハグしたりしましたね(笑)。『good morning!』って言って1日が始まる。いまはさすがにもうやっていないですけど、一時はそんなことも決まり事みたいにやっていました。はじめはちょっと恥ずかしいですよね。海外チックやなと思いますし。でも、やってみると距離は縮まる。コミュニケーションは取りやすくなったように思います」

 また、それまでは全く知ることがなかった協会関係者の尽力や、スポンサーの存在も肌で感じることができた。

「キャプテンをするまでは、そういう裏側の動きって全然、分からなくて。キャプテンをやって、いろんな人と話をしてみて、ようやくわかるようになった。みんなすごくチームのために動いてくれているんやなって実感しましたね」

 アンソニー監督が「コートの中でも外でも責任感が強い」と評する内藤にとって、結果的にはそうしたシーンを見ることができたことは、吉と出た。そうして持ち回りだったキャプテンマークは、その後はずっと内藤の腕に巻かれることになった。

W杯での失望とアジア大会での歓喜。

 内藤がキャプテンに就くのと時を同じくして、さくらジャパンの活躍の度合いも上向いていく。海外の強豪とのテストマッチを繰り返し、'18年のイギリスW杯では予選リーグで世界ランキング4位のニュージーランドを撃破。決勝トーナメント進出は間違いないところまで来ていた。

 ところが、次節で格下のベルギーにまさかの敗戦を喫してしまう。

「ベルギー戦の敗戦は、自分たちでも悔しすぎて……。気の緩みがあったとは思わないですけど、終わってみて振り返ると、そういうことなのかなとは思います。こちらの準備が足りなかったというよりも、相手の準備がすごかった。日本選手の分析もひとりひとり、丁寧にしていたみたいだったので」

 大躍進のチャンスを逃したチームは、監督も言葉を失うほどの状況だったという。さらに厄介だったのは、その1カ月後にすぐにアジア大会が控えていたことだった。

「正直、チーム全体が魂、抜けていたような感じになっていて。アンソニーもずっと部屋に引きこもっているような状況でしたから……。でも、だからこそみんなに『W杯がこういう終わり方だったからこそ、アジア大会では絶対に結果を残さないとダメ。だから、とにかく切り替えていこう』という話はしていました」

 課題のセットプレーに問題はなかったか。

 大一番に臨むメンタルは適切だったのか。

 アジア大会までの3週間で、内藤を中心にチームは様々な議論をしたという。

 結果として、日本はアジア大会準決勝で過去5回の優勝を誇る韓国に完封勝ち。決勝ではインドを2-1で破り、史上初のアジア大会での金メダルを獲得した。もちろん、その輪の中心には内藤の姿があった。

「W杯でニュージーランドに勝った時もそうでしたけど、それに加えてこのアジア大会の金メダルで、本当に五輪のメダルに現実味が出たような気がしました」

【次ページ】 故障での長期離脱に危機感はあるが。

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