Sports Graphic Number WebBACK NUMBER
さくらジャパンに欠けた「ラストピース」。
“元”不動のキャプテン・内藤夏紀が想うこと。
posted2019/11/30 11:00
text by
別府響(文藝春秋)Hibiki Beppu
photograph by
Yuki Suenaga
誤解を承知で、ステレオタイプを張り付けるならば。
激しいコンタクトスポーツの選手は、ノリの良いムードメーカータイプか、その真逆の寡黙な仕事人のような性格の人が多い。
ところが、そんないずれのキャラクターとも異なる、柔らかな笑顔と静穏を纏って、さくらジャパンの元キャプテンはやって来た。
女子ホッケー日本代表が、快進撃を続けている。
昨年のアジア大会で難敵・インドを破って金メダルを獲得すると、今夏に行われた練習試合では世界ランキング1位のオランダ、同4位のイギリスと接戦。8月に行われた東京五輪のテストイベントでは世界ランキング2位のオーストラリアと引き分け、決勝でインドに敗れたものの、準優勝に食い込んだ。
一方で、そのフィールドに、代表チームの“大黒柱”の姿はなかった。
「自分より年下の子たちがチームを引っ張ってくれているので、申し訳ない気持ちですね。でも、試合の結果を見ているとチームとしてもいい試合が増えてきているように思うので、すごくレベルアップできているんじゃないかなと思います」
内藤夏紀はいま、そんな風に外から代表チームを眺めている。
金メダルを目標に置くチームの主将に。
さくらジャパンは2017年6月にオーストラリア人のアンソニー・ファリー監督が就任し、「東京五輪での金メダル」を目標に動き始めた。
「当時はまだチームについていくのに精いっぱいの選手だったので、『ちょっと目標、高いな』とは正直、思いました。でも、最初にアンソニーがチームをつくる上で、プレゼンテーションをしてくれたんです。パワーポイントを使ってやってくれたんですけど、『金メダルのためにこの時期までにこれをする、次はこれをする』というプランが細かく、しっかりと立っていた。それを見てようやく現実感が出てきました」
物腰が柔らかく、理論派の指揮官の就任はこれまでのチームに変化をもたらした。それと同時に、体制変更に伴って、選手たちをまとめるキャプテンも新たに選出されることになった。
当初は複数人で行うなど、固定されていなかったキャプテンの任を初めて内藤が任されたのは、翌'18年1月のことだ。
「いきなりみんなが集合している中で監督に『今回のキャプテンはナツキ』って言われて。最初に言われた時は『無理!』ってなりました(笑)。これまでもそういう立場になったことがなくて。言葉で引っ張ったりするのも苦手だし、人に『付いてこい』というタイプでもなかったので……ちょっと動揺しましたね。正直、『できない』と思いました」
とはいえ、監督から指名された以上はそこでノーとは言えない。自分自身すらその適正に半信半疑ながら、ともかく“内藤キャプテン体制”はスタートした。