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高野連が示した球数制限の新規定、
「1週間で500球」は問題ないのか?
 

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鷲田康

鷲田康Yasushi Washida

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photograph byHideki Sugiyama

posted2019/09/27 18:00

高野連が示した球数制限の新規定、「1週間で500球」は問題ないのか?<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

去年の夏の甲子園決勝で試合を終え握手を交わす大阪桐蔭と金足農業のナイン。吉田輝星(中央)の球数は新規定では引っかかっていた。

判断を監督個人に委ねるのは正しいのか。

 もう一度言うが、事実は佐々木がケガをしなかった。その1つしかないからだ。

 そしてその背景には骨密度の測定や医師の助言を受け入れて、成長途上の子供に必要以上の負荷をかけずに野球をやらせるという国保陽平監督の判断があった。

 ただ、そういう判断を監督個人に委ねることが果たして正しいのか。これだけ賛否が渦巻く判断を国保監督はした。ただ1人の監督にそれを委ねることで、判断を誤るケースも出てくるかもしれない。だからルールで制限する。一律である程度の枠をはめて選手を守る。それが球数制限が必要な理由だ。

 球数制限は自動車のスピード制限と似ているかもしれない。

 時速何キロを出したら事故の確率が高くなるのか正確なエビデンスはない。運転者の技量もあるし、車の性能も影響するかもしれない。しかしスピードの出し過ぎは事故を誘発する大きな理由であることは明白だから、一般道は50キロなら50キロ、高速道路では100キロなら100キロと制限が設けられている。

 球数制限も1試合100球という数字に医学的なエビデンスがあるわけではない。それぞれのフォームや疲労度、天候やマウンドの固さなどももちろん影響する。しかし投げ過ぎることは肘や肩にダメージを与えることは明白だから、どこかで数字を決めなければならないということだ。

選手ファーストの流れの中で。

 高校野球が勝ち負けではなく、子供たちの心身の成長を促し、大きなケガをさせないことを第1の使命とするならば、そのための球数制限と登板間隔の規定は必須のはずだ。

「世の中の大きな動きとして全体のために個人が犠牲になってはならない選手ファーストという流れの中、高校野球がパラダイムシフトに踏み出すというメッセージです」

 中島座長は今回の決定の意義をこう語る。

「1週間で500球」という数字には、ほぼ意味はない。ただ、この決定を日本高野連はもちろん、各県の高野連や各校の監督、関係者が、どう受け止めるかである。ルールにはそのルールが決まった“法の精神”がある。その精神をどこまで理解し、決定の意味を現場に反映できるか。

 牛のごとく動き出した高校野球界には、そこを期待をするしかない。

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吉田輝星
金足農業高校

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