プロ野球PRESSBACK NUMBER
鳥谷敬はなぜ「退団」するのか。
藪恵壹が指摘する阪神の問題点。
text by
藪恵壹Keiichi Yabu
photograph byKyodo News
posted2019/09/27 11:50
2011年、お立ち台で握手を交わした鳥谷(左)とメッセンジャー。どちらも今季での退団が決まったが、その経過は対照的だ。
福留の残留に、鳥谷は何を思う?
ベテラン3人という話をしましたが、鳥谷を切る一方で、来季43歳になる福留を残そうとする判断も疑問です。
福留が入団した2013年から、タイガースは一度も優勝できていません。正直、昨シーズン阪神がリーグ最下位に沈んだ時点で、引退や戦力外の対象だと思っていましたが……。チーム内を新しくしていかないといけないという時期に、ここを変革しないのは腑に落ちません。
先月下旬、福留が来季も契約するという報道が出ました。この時点で来季の自分が白紙状態だった鳥谷にとって、これは衝撃だったでしょう。自分よりも年上の福留の契約が決まっているのに、自分は決まっていない、という状態が抱かせる不安はとてつもなく大きいはずです。その不安が、神宮球場での「最後になるかもしれない」という発言になってしまったのではないか、と思います。
そこまで鳥谷を不安にさせてしまったというのは、すなわち球団の誰も鳥谷とコミュニケーションが取れていなかったということです。これが最も大きな問題です。
本人の考えを尊重できなかったのか。
鳥谷も、自身の今季の成績が奮っていないことは当然わかっていたはずです。では、その成績や能力、いずれ来る引退とその後について、鳥谷自身はどうしたいと考えていて、どんなビジョンを持っていたのでしょうか。そういった本人の考えに球団が正面から向き合ったり、寄り添ったりということをしてこなかった。それが今回の引退勧告騒動を引き起こした、根本的な原因だと思います。
鳥谷が2014年オフに海外FA権を行使した際、阪神は将来の監督手形の話を出しました。結果的にその手形は鳥谷本人によって突き返されましたが、球団のビジョンがしっかりと見えていたように思います。しかし、今回は話し合いの場でそのカードを切ることさえしませんでした。
自身ではまだできる、まだやれると思っているのに、将来の話もなく突然「引退してくれ」と言われたのでは、選手が「それは自分で決めることだ!」と反発するのも当然でしょう。