プレミアリーグの時間BACK NUMBER
英国の小さなサッカークラブ消滅も、
ファンの地元愛と魂は死なない。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2019/09/03 18:00
地方クラブを応援する背景には郷土愛などがある。イングランドでも、そんな中小クラブが消滅するケースは皆無とは言えない。
助け舟を出したネビル兄弟も……。
怒りの矛先は、オーナーとフットボールリーグに向けられている。オーナーは負債に苦しんでいたクラブを昨年12月に買収したにも関わらず、資金不足で経営を立て直せなかった。そればかりか、名目上だけの1ポンド(約130円)購入から、売却を拒んで手遅れを招いた。そんな人物にオーナーとなる資格を認めたフットボールリーグも同様だ。
元マンUのガリーとフィルのネビル兄弟は、両親と親戚がバリーに雇用されていた縁があった。そのため弟のフィルがクラブの末路に思うところを語った。
しかし、結果的には一部のファンから反感を買う羽目になった。タイミング悪く、今季からリーグ2に昇格したサルフォードにマンUのOB仲間と共同オーナーとして出資したくせに、家族と縁のあるバリーがリーグ追放の危機にあるのに見捨てた、とみなされたのだ。
ネビル兄弟に対する“口撃”は、思わず八つ当たりといったところか。
ハート&ソウルを失ったファン。
哀愁から憤慨まで感情たっぷりのバリー・ファンは、口々に「ハート&ソウルを失った」と言っていた。
決して大げさな表現ではない。ビッグクラブや強いチームになびくことのない「我がクラブ」への愛情、そしてリーグ追放に伴う悲哀は、クラブと地域の垣根を超えて国民に理解されている。
バリーから300キロ以上離れている西ロンドンでも、近所のブレントフォード(2部)、市内のアーセナルやトッテナムをサポートする隣人と立ち話になれば、自然とバリーの悲劇に話が及ぶ。この国に“故郷のクラブ”がない筆者でも他人事とは思えず、バリー・ファンの不幸に胸が痛んだ。
延命に微かな望みが生まれたかと思われた8月24日、筆者はノリッジに行っていた。
イングランドでは数えるほどしかない30度台の真夏日。チェルシーのサポーターたちはロンドンを朝8時半に出る列車の中からビールを飲み、その時点で勝ち星のないチーム談義に盛り上がっていた。
満席の車内では、ファンジン(ファンが集まって作る雑誌)の製作者が車内販売員さながらに最新号を売り歩いていた。今季初勝利後の帰りの車内では、浴びるようにビールを飲んで祝勝会騒ぎ。そんな光景を眺めながら、彼らがチェルシーのない日常を強いられたら一体どうなってしまうのか? そう思わずにはいられなかった。