スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
メッシよりも、久保建英よりも速く。
バルサが驚いた16歳ファティの軌跡。
posted2019/09/05 11:40
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph by
Getty Images
アルバに首根っこを、ピケに頭を掴まれて言葉をかけられると、思わず左手で顔を覆った。両手で口元を抑え、「信じられない」と言わんばかりに目を見開いた彼は、首を横に振りながらこうつぶやいた。
「何てこった。あり得ない」
第3節を終えて1勝1分1敗。ネイマールはやって来ず、メッシやスアレス、デンベレらの離脱も重なる不穏な船出となった新シーズンのバルサにおいて、明るいニュースをもたらす新星が現れた。
アンスマネ・ファティ、16歳。
バルサの史上最年少ゴール。
第2節ベティス戦にて、クラブ史上2番目の若さで公式戦デビューを果たした“アンス”は、翌週のオサスナ戦で1点を追う後半開始から左FWに投入された。
そのわずか6分後。右サイドのカルレス・ペレスが左足でクロスを上げると、素早い出足でマーカーに先んじ、ひねりをきかせたヘディングシュートをゴール左隅に流し込んだのである。
16歳と304日での初ゴールは、ファブリス・オリンガ(16歳と98日)、イケル・ムニアイン(16歳と289日)に次ぐラ・リーガ史上3番目に若く、バルサでは史上最速の記録となった。
彗星の如く現れたシンデレラボーイ――。
そんな使い古された表現で形容したくなるアンスの衝撃デビューだが、彼とファティ一家がこの日を迎えるまでには、我々の想像をはるかに上回る困難な道のりがあった。