プレミアリーグの時間BACK NUMBER
英国の小さなサッカークラブ消滅も、
ファンの地元愛と魂は死なない。
posted2019/09/03 18:00
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph by
Getty Images
よく、クラブのサポーターが試合会場に持ち込む旗や、合唱するチャントに登場する、「○○・ティル・アイ・ダイ」というフレーズ。これは、生涯の忠誠を誓う謳い文句だ。
その背景には、日常の一部と化しているサッカーの中でも「我がクラブありき」のイングランド人らしいあり方がある。同時に、心のクラブは常に実存するという前提も。
この国のクラブはフランチャイズ制と無縁。親はもちろん、曾祖父母の代からサポーターという例も珍しくはないように、故郷のクラブというものは、人々の生涯を通して存在し続けるべきものなのだ。
その地元クラブが、ある日突然、消滅してしまう……。イングランドの庶民にすれば、考えられないシナリオだ。ところが、昨季にリーグ2(4部)からリーグ1(3部)に昇格を果たしたバリーのファンは、あってはならないはずの悲劇を体験することになった。
原因は、負債が膨らんだ末の経営破綻である。
国内北西部の街にあるバリーは、フットボールリーグ(2~4部)が指定した8月23日午前0時までという当初の“デッドライン”こそ延期に漕ぎ着けた。だが、土壇場で取りつけたはずの買収商談が最終期限の27日午後5時に間に合わず、復帰1年目となるはずだったリーグ1のピッチでボールを蹴ることなく、フットボールリーグから蹴り出されてしまった。
下部でも経営難をしのげるはずが。
開幕からバリー戦の5試合を延期していたリーグにしてみれば、リーグ1に所属する他の23チームと日程への影響から止むを得ない判断だった。
バリー側としてはクラブ買収による延命の希望が生まれた矢先の出来事だっただけに、余計に辛い追放処分となった。サッカー協会が主催するFAカップへの参戦も許されないため、試合を開催できない。つまりは収入がないため倒産という末路は避け難い。
前例がないわけではない。だが、前回のリーグ追放事例は4部で起きた27年前のことである。この国のクラブは、下部リーグ勢でもしぶとく経営難をしのげるという見方が一般的である。
もちろん、最上層のプレミアリーグとの間には歴然とした経営規模の差が存在するが、それぞれのレベルに応じてチケットを買って試合を観戦し、グッズ購入でお金を落としてくれる得意客を多く抱えているからだ。