スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
B・ハーパーとM・マチャド。
超大型契約で賑わせた2人の明暗。
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2019/08/31 10:00
移籍前のハーパー(左)とマチャド。ともに開幕前のFA市場を賑やかしたが、移籍後は明暗が分かれた。
両者同じような成績に見えるが。
ビジネスはそういう感じだが、戦力としてはどうだったのだろうか。
8月26日現在、マチャドは、打率=2割6分4厘/出塁率=3割3分5厘/長打率=4割7分、本塁打27本、打点74という数字を残している。
ハーパーのほうは、253/372/500、本塁打28本、打点93。
似たような数字に見えるが、内実はかなり異なる。マチャドのほうは、リーグ最多の19併殺打を記録し、ゲーム終盤になると打率がめっきり低くなる。つまり今季の彼は、勝負どころで弱いイメージがあって、インパクトにも欠ける。ただ、守備は巧いし、もともと力量のある選手だけに、長い眼で見て評価するのが妥当だろう。
弱点は多いが、勝負強いハーパー。
ハーパーには「危険な男」のイメージが強い。
2015年には史上3番目の若さでMVPに輝いているが、今季も、得点圏打率が際立って高い。106打数で39安打、8本塁打。3割6分8厘の打率は、得点圏打数100以上の選手に絞ると、ナ・リーグのトップだ(4割2分4厘のチャーリー・ブラックモンや、3割7分3厘のジオ・アーシェラは100打数に達していない。124打数のノーラン・アレナドは3割5分5厘)。大リーグ全体でも、ハーパーより打率が高いのは、ヤンキースのDJ・レメイヒュー(108打数43安打、3割9分8厘)しか見当たらない。
この特性が、ハーパーの人気を支えている。たしかに彼は三振が多い('18年が169個で、今季も現在148個)。フライボール革命に対抗する投手たちがシンカーを捨て、高目のフォーシームで勝負する場面が増えてからは、事態はなおのこときびしい。
ハーパーは、典型的なローボールヒッターだ。両膝を深く折り、立ち上がる際に右肩を大きく回転させてトルクをかける。低目のまっすぐに滅法強いゆえんだが、胸元で浮き上がるフォーシームにはバットが当たらない。
これが両刃の剣となる。危険だが脆く、弱点は多いが勝負強い。本塁打は多いが、三振も多い。観客にしてみれば、興奮と失望を交互に味わわされる存在。