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“73kg級のモーツァルト”大野将平。
世界柔道優勝に「何の驚きもない」。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byKYODO
posted2019/08/28 11:40
男子73kg級決勝でアゼルバイジャンのルスタム・オルジョフ(上)を破り優勝した大野。
強がりから来る言葉ではない。
ただ、大野自身は、「興味は、特にないですね」と意に介さなかった。
それは強がりなどから来る言葉ではなかった。リオで金メダルを手にしたあと、大野の心にあったのは、自分の強さをただ突き詰めたいという考えだった。
「相手がどうこうより、自分が突き抜ければ、と思っていました」
心技体、すべてにおいて上回れば、他者は関係ない。だからいかにして自分に磨きをかけるか、それだけがあった。
リオ後、休養したのもその過程だった。天理大学大学院で柔道の研究に打ち込んだのだ。
修士論文のテーマは大外刈り。「必殺技」と語る技の1つを研究した。感覚で行なっていたことのメカニズムをつかみ、論理的に捉えられるようになったという。
73kg級のモーツァルト。
もともと、自身で考える力の強い選手だ。
どのような練習、トレーニングが必要なのか、どこが足りないか、ただ教えられるだけでなく自分で組み立てることができる。そんな大野だから、一時的に距離をとったことで、自分の柔道を整理する時間にもなっただろうし、そこで得た財産も畳の上に還元していった。
本格的に復帰したのは昨春のこと。8月のアジア大会で優勝すると、以降、国内外のすべての大会で優勝。
4年ぶりとなった世界選手権で見せたのは、リオ後の時間のたしかさだった。
同時に、あらためて示したのは、大野の価値だ。
しっかり投げて一本をとる、という日本柔道界の、いや日本にとどまらず、柔道の本来の魅力を体現する柔道家であること。余談ながら、昨年、大野の欧州大会での優勝を伝えるフランスの柔道誌の記事で「73kg級のモーツァルト」と形容されたことがある。