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丸山城志郎が貫いた自分の柔道。
66kg級は「阿部一強」ではない。
posted2019/08/27 11:50
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Naoki Nishimura/AFLO SPORT
優勝が決まった瞬間、成し遂げた価値の大きさに比べれば、控えめに両手でガッツポーズをして、かすかに笑顔を浮かべた。
8月26日、柔道の世界選手権2日目。男子66kg級の丸山城志郎は、初出場にして金メダルを手にした。
白眉は、準決勝だった。
「まさに世界最高峰の試合」
日本代表監督の井上康生氏がそう評した、阿部一二三との一戦である。
出場選手の顔ぶれを見ても、この階級で丸山と阿部が実力的に抜けているのは明らかな今大会。実質上の決勝戦と言ってよかった。
阿部は2017、2018年の世界選手権を連覇。豪快な一本勝ちが印象的なことなどもあって、柔道ファンのみならず、広く注目を集めてきた。男子を代表する存在となってきた。
阿部と丸山、どちらが強いか。
ただ、この1年の様相は異なる。
昨年の世界選手権のあと、阿部は国内外の3大会連続で優勝を逃している。その阿部の前にたちはだかったのが、丸山だった。
丸山は昨年11月のグランドスラム大阪から国際大会で3連続優勝し、今春の全日本選抜体重別選手権でも優勝。このうち2大会で阿部と対戦し、どちらも勝利をおさめている。
成績ばかりではない。内股や巴投げなどを得意とし、その切れ味は一本をとることに重きを置く日本の柔道界においても「美しい」と評されるほどだ。
成績、地力の両面を見れば、一般の注目度とは異なり、「阿部一強」ではなくなっていることは明らかだった。
そんな2人にとって、今回の世界選手権はどちらが強いかを証明するための舞台である。しかもその結果は、各階級1人しか出られない来年の東京五輪代表争いに大きく影響する。なおさら譲るわけにはいかなかったし、この日へ向けて、互いに対策も練ってきた。
その成否はいかに――。しかし、試合は思わぬ展開を見せる。