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“73kg級のモーツァルト”大野将平。
世界柔道優勝に「何の驚きもない」。
posted2019/08/28 11:40
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
KYODO
戦い終えて、優勝したことに対するひと言は、すとん、と響いた。
「何の驚きもないですね」
8月27日。柔道の世界選手権男子73kg級で、大野将平は金メダルを獲得した。
全6試合、オール一本勝ち。きれいな、という表現ではおさまらないほど、見事な投げ技を連発。実力の違いは明らかだった。
「優勝すると思っていましたから、驚きはない」
その言葉が出るのは、畳の上で繰り広げられた光景を見れば、自然だった。
日本代表の井上康生監督は、こう評した。
「リオオリンピックのとき以上の力がついています。(実力は)計り知れないですね」
最大級の賛辞と言ってよかった。
何が大野を高みに導いているのか。
井上監督が触れたリオデジャネイロ五輪で金メダルを獲得した大野は、27歳になった。世界選手権は、一時休養したこともあり、4年ぶりの出場でもあった。
その中で示したのは、進化した柔道だった。技の切れをはじめ、総合的に力を増した姿がこの日にあった。
考えてみれば、頂点を一度は極め、ベテランといってもよい領域に入ってからの成長は驚異でもある。
何が大野をより高みへと導いているのか。
それは、大野の根幹の思いにある。
73kg級にも、国内の有力選手は少なくない。ライバル対決としてクローズアップされる機会もあった。