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イチローが語る唯一無二の天才論と、
「鈴木一朗」と「イチロー」の距離。
text by
石田雄太Yuta Ishida
photograph byNaoya Sanuki
posted2019/08/31 11:30
イチローは2001年の渡米直前、「天才(と自分を)言うな!」と話していた時期があった。
もし自分を殺してプレーしてしまえば。
「いえ、そんな不安はありませんでした。なぜかって、彼らはみんなわかっていてそれを表現できないだけだから。実際、ゲームでの動きがそうですもん。自分のことしか考えていない。よっぽど僕よりも自分のことしか考えない動きに見えます。そんなこと、わかり切ったことなんです。打てなくても勝てばいいというのは、極端に言えば自分がいなくてもチームが優勝すればいいってことでしょ。ずっとベンチにいても優勝できればいいなんて選手、いるわけがない」
ならば、もしイチローが自分を殺してチームのためにプレーするという意識を持たされたとしたら、イチローというプレイヤーは何を失ってしまうと思っているのだろう。
「たぶん、オレなんてお金払って見る価値はないなって思うでしょうね。そうしている自分のことを、オレ、つまんねぇなって……きっと、野球も好きじゃなくなっちゃいますよ」
周りに流されず、信じた価値観を貫くからこそ、野球が楽しい。どれほど多勢に無勢だと感じさせられても、自分の形を持って、自分のために野球をやろうとする仲間は、必ずいる。そう思えるからこそ、今のイチローは孤独感を感じることがない。
比較するのは、あくまでも自分。
6年連続で成し遂げてきたすべての数字を、7年に伸ばすことが期待される今シーズン。そのうち、200安打については7年連続が近代野球におけるタイ記録となる。ウエイド・ボッグズ―─12年連続でオールスター出場を果たした'80年代のメジャーを代表するサードベースマンである。ボッグズはメジャーデビュー翌年の1983年から、7年連続でシーズン200安打を達成している。
「最初にメジャー記録が7年だって聞かされたときは、あれって思いました。日本で僕がプレーしてきた年数と同じでしたからね。7年というのは、僕にとってはメジャー記録というより、自分が日本で首位打者を獲り続けてきた年数なんです。そっちのほうが僕には重い。それが僕がアメリカである程度、やれた証だと思っていましたから。
比較するのは、あくまでも自分です。もちろん他人の記録も尊いとは思いますが、まずは自分の能力と競わないと……僕は日本では自分なりに必死こいてやってきました。その数字を、アメリカでは楽々と超えていきたいんです。必死こきたくない。去年、『僕だってギリギリのところでやってるんですよ』って言ってたでしょ。そういうの、ホントはイヤなんです(笑)」