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バド女子ダブルスの過酷な選考過程と、
フジカキ&タカマツの知られざる絆。
posted2019/08/18 11:30
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Shinya Mano/JMPA
互いに刺激を受け、切磋琢磨しながら成長し続けてきた。
藤井&垣岩が引退しても、その強い絆は変わらない。
彼女たちが紡いだ物語は東京へと続いていく。
Number977号(2019年4月25日発売)の特集から全文掲載します!
グースの羽は、ふたりとふたりの間に落ちた。ゲームセット。その瞬間、高橋礼華と松友美佐紀の目から熱いものが落ちた。
その涙は藤井瑞希と垣岩令佳を戸惑わせた。この敗戦を最後に、コートを去るのは自分たちなのに、なぜ目の前のペアはこれほど激しく泣いているのだろう。
「先に泣くなよ……」
垣岩は、小学生の頃から仲の良かった高橋にそう言うと、こらえ切れずに号泣した。
2018年11月29日。バドミントン日本一を決める全日本総合選手権2回戦。
ロンドン五輪で銀の「フジカキ」とリオ五輪で金の「タカマツ」という、日本ダブルスの歴史をつくってきた両ペアが戦った最後の試合。気づいていなかった絆に気づかされた、記憶すべき瞬間だった。
ロンドン五輪を直視できなかった。
2012年。まだ22歳だった高橋と、20歳だった松友はついに訪れた日本バドミントンの夜明けを直視できなかった。
ロンドン五輪、ウェンブリー・アリーナ。弾むようなフットワークでシャトルを自在に散らす24歳の藤井と、170cmに迫る長身からジャンピングスマッシュを打ちおろす23歳垣岩のペアは1ポイントごとに笑いあい、まるでダンスを楽しむように勝ち進んだ。デンマーク、カナダと世界の強豪を倒し、決勝は最強・中国と激戦を演じた。
この国の、この競技に初めてもたらされたメダルが銀色に輝いていた。その眩しいほどの夜明けは、遠くおよそ9300km離れた日本の深夜にも中継されていたが、高橋と松友はそれを見ることができなかった。
「すごいなという反面、悔しい気持ちが強かったので見れていなくて……」(高橋)
「ちらっとだけ見た記憶があります。全部は見ていません」(松友)
それは当時、ふたりにとって抱いて当然の、むしろ抱くべき感情だった。