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フライボール革命と三振の激増。
大谷翔平のホームランもその一例だ。 

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広尾晃

広尾晃Kou Hiroo

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photograph byNanae Suzuki

posted2019/08/07 11:40

フライボール革命と三振の激増。大谷翔平のホームランもその一例だ。<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

メジャーの舞台でビッグフライを量産する大谷翔平。その一方で三振も多いが、フライボール革命が進むMLBの象徴なのかもしれない。

フライならどんな名手でも取れない。

 21世紀初頭、つまりイチローがメジャーデビューした当時、MLBの総本塁打数は5000本を超えていて、平均打率は.260台だった。それが2010年代初頭には4500本前後、打率は.255前後になった。

 この背景には、この時期に投手の球速がアップし、100マイル(約161km/h)前後の球を投げる投手が珍しくなくなったことがあるだろう。また、データの活用によって打球の方向をあらかじめ予測し、一二塁間に4人の内野手が並ぶなど、極端なシフトが取られるようになったことも影響している。

 フライボール革命は、その対抗策とも言える。打ち上げてしまえば、どんな守備の名手がどこに守ろうとも、ボールを取ることはできないのだ。

 2015年ころから本塁打数が増え始め、2017年には6000本を超えた。これは長いMLBの歴史でも初の記録だ。2018年にはやや落ちたが、2019年は2017年をはるかに上回るペース。このままのペースでいけば、シーズン終了時には6700本に達する計算になる。

 まさに「誰でもホームランを打つ、ホームラン民主化の時代到来」なのだ。

三振数の増加は「投高」だったが。

 ただ、本塁打の増加に伴い三振数も急増している。これもまたかつてない傾向だ。

 これまでの常識で言えば、「三振数の増加」は「投高」の進行を意味している。しかし今はホームランが急増する「投手受難」の時代なのに、三振数が増えている。

「バレル」を狙って打者が思い切りバットを振り回す。その代償として三振数も急増しているのだ。2019年の1試合当たり8.76個という平均三振数は、1イニングあたり最低1人が三振している計算になる。これも野球史では今まで見られなかったことだ。

 MLBでは「ルーズベルトゲーム(8-7のスコアのこと。大の野球好きだったフランクリン・ルーズベルト大統領が「8-7」で決着する試合が一番面白いと言ったことにちなむ)」が理想の試合と言われてきた。

 投手戦を好む日本とは異なり、打撃戦こそ野球の醍醐味という認識はもともとあったが、フライボール革命の進展によって、その傾向にさらに拍車がかかったと言えよう。

 言い換えれば三振は、ホームランを打つためのコストになっている。どれだけ三振をしても、ホームランを打てればそれでいい。そういう認識が急速に広まっているのだ。

【次ページ】 ここ近年顕著な三振率の増加。

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