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唯一のゴールは五輪での「金メダル」。
さくらジャパン監督が目指すもの。 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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photograph byHideki Sugiyama

posted2019/08/21 12:00

唯一のゴールは五輪での「金メダル」。さくらジャパン監督が目指すもの。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

女子ホッケー監督のアンソニー・ファリーは「金メダルが獲れる」と断言。

「アンソニー」と呼ばれるほどの距離感。

 選手たちと監督の距離も近い。選手はみんな、監督のことを「アンソニー」とファーストネームで呼ぶ。

 親近感はファリー監督の持ち味かもしれない。

 合宿が行われていた山梨学院大の近くには、スペシャルティコーヒーを出すお店がある。私が立ち寄ったところ、この店のご主人によれば、「監督は常連さんなんです」という。その真偽を監督本人に確認すると、

「えっ! もうそんな情報までつかんでいるのかい(笑)。コーヒーが大好きでね。実は、故郷のオーストラリアではコーヒーショップを経営していたこともあるんだよ」

 気さくな監督なのである。

女子W杯での歴史的勝利と想定外の敗戦。

 そしてなにより、指導の腕も確かだった。2018年、「さくらジャパン」は大きく飛躍する。

 7月21日から8月5日にかけてロンドンで開催された女子ワールドカップでは、初戦でオーストラリアに敗れたものの、2戦目で当時世界ランキング4位だったニュージーランドに2-1と歴史的な勝利を収める。

「素晴らしい試合だった。フィットネス、コミュニケーション、チャンスで得点を取り切る力。チームの力が結集した勝利だった」

 この勝利で日本は決勝トーナメント進出は確実と思われた。

 監督自身もそう考えていたが、最終戦のベルギー戦で想定外のことが起きた。前半を終えて0-3。監督はその試合のことをこう振り返る。

「グラウンドで起きていることが信じられなかった。ニュージーランドに勝ったことでチーム力は証明されていたからね。後半に入っても先手を取られ、最終的には3-6で負けてしまった。では、なにが問題だったのか? 幸いだったのは、W杯が終わってからアジア大会に向け、3週間時間があったことです。この期間にベルギー戦で浮き彫りになった課題を解決することが出来たのです」

 世界の舞台で結果を残したことがなかった日本は、大一番でプレッシャーをうまくコントロールすることが出来なかった。先取点を奪われ、あれよあれよという間に点差が離れていく。まだ、自分たちを信じることが出来ていなかった。

 メンタリティだけではなく、試合の戦略、フォーメーション、そしてセットピースにも磨きをかけた。

 ホッケーの場合、多くの得点はセットピースから生まれる。攻撃側であればパターンを増やし、防御側は守りの約束事を決め、それを徹底する。

「W杯の後、セットピースを研究する時間がたっぷり取れました。W杯で課題を得て、この3週間でチームは大きく成長したと思います」

【次ページ】 アジア大会初優勝は小さな勝利に過ぎない。

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