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唯一のゴールは五輪での「金メダル」。
さくらジャパン監督が目指すもの。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byHideki Sugiyama
posted2019/08/21 12:00
女子ホッケー監督のアンソニー・ファリーは「金メダルが獲れる」と断言。
アジア大会初優勝は小さな勝利に過ぎない。
それはアジア大会での成功につながった。
日本は準決勝で過去5回の優勝を誇る韓国を2-0とシャットアウトすることに成功する。そして決勝ではインドを2-1と破り、アジア大会での初優勝を遂げる。
さくらジャパンにとって、大きな意味を持つ金メダルだ。
ファリー監督は、選手たちの喜ぶ姿を見て感激したという。
「この勝利は、君たちが自分の手で勝ち取ったものだ。自分たちの力を信じていいんだと話しました。ただし、こう付け加えたんです」
監督の視線は東京オリンピックに向いていた。
「アジア大会での金メダルは、日本女子ホッケー界にとって大きなレガシーになるだろう。けれど、この勝利は小さな勝利に過ぎない。なぜなら、われわれはオリンピックで金メダルを獲得して、大きな勝利を得るのだから」
今年に入ってからも頻繁に合宿を行い、韓国、チリ、イギリス、オランダを日本に招聘して試合を行った。
特にオリンピックまであと1年となった7月は重要な試合が組まれ、昨年のW杯で8強に進出したイギリスに対して2連勝。しかしW杯の女王、オランダ相手に1戦目は2-3、そして2戦目も第3ピリオドまで1-1の同点だったが、最終第4ピリオドで引き離され、1-3で敗れた。
「イギリスに2連勝したのは大きな収穫です。オランダには……選手たち自身が勝てるチャンスがあったことを実感しているはずです。ここでまた課題が浮き彫りになりましたから、チーム力を向上させるチャンスがやってきました。去年の夏と一緒ですね」
東京五輪での金メダルが唯一のゴール。
ファリー監督の頭の中には、東京オリンピックまでのロードマップがしっかりと描かれている。
キーワードとなるのは、「経験」だ。
「さくらジャパンが必要としていたのは、クオリティの高い試合を経験することでした。日本の力が充実してくれば、相手の力も引き出すことが可能になります。いま、それが出来るようになりました。私がヘッドコーチに就任して、2018年は合計で43試合、2019年は年末までに38試合を計画しています。そして2020年は4月までに20試合ほど戦い、そこからは試合をしません」
海外のチームとの手合わせはせず、「息を潜める」のだという。
その狙いはどこにあるのか?
「ここ数年、上り調子のチームがいきなり試合をせず、鳴りをひそめたとしたら、どう感じるでしょうね。不気味に思えませんか? そうした効果は副次的なものですが、ひたすら合宿を重ねることで、チーム力を高める。それに尽きます」
開幕まで1年を切った東京オリンピックでのゴールはただひとつ。
「金メダル。私はそのために日本にやってきましたし、達成可能な目標であり、それが唯一のゴールです」