令和の野球探訪BACK NUMBER
国学院久我山を導いた29歳青年監督。
“短い練習”を武器にした文武両道。
text by
高木遊Yu Takagi
photograph byYu Takagi
posted2019/07/29 12:10
28年ぶりの夏の甲子園の切符を手にした国学院久我山。中澤直之主将(右)と喜ぶ尾崎直輝監督。
“壁”を自ら打ち破った若手監督。
コーチとしても接してきた選手たちとは年齢も近かったが、監督の立場となると「壁」を感じた。
「監督の顔色を窺って野球をしてほしくない。思いとか見えたことを素直な言葉で表現してほしいのに……」
そう悩む時期もあったが、ふと落ち着いて考えると「選手たちに“かっこつけるな”と言っていたけど、かっこつけていたのは自分だ」と気づいた。選手たちのパフォーマンスを最大限に発揮させるために「監督と思われなくてもいい。彼らとともに戦うチームメイトでいよう」と決めた。
だから、練習では自らも体を動かしながら指導をし、練習でも試合でも声や感情を選手たちと同様に出す。時には選手たちと一緒になってふざけることも厭わなかった。
指導は「頑張ってきたことを認める」ことを大事にした。
それはレギュラーであろうとなかろうと関係ない。自身も裏方だったからこそ「誰一人必要でない部員はいない」と思い、在学時に指導を受けた高良武士監督(当時)に練習後よく声をかけてもらい嬉しかった記憶があるからこそ、全部員とコミュニケーションを取るように心がけてきた。
無駄を省き、効率を上げた短い練習。
また、短い練習時間でも選手個々に強みが作れるよう練習も工夫した。
前述のように練習は内野部分と外野のライト部分しか使えない日も多いが、その長方形のスペースを、たとえば打撃練習、バント練習、盗塁練習、外野守備と4分割にする。全員で同じ練習をすることで無駄になる待ち時間を減らし、各自が今必要と思える練習をできるようにした。
選手の状態や時期によっては、何か1つの練習を重点的に行わせることもある。
「練習時間が2時間、3時間“しかない”とよく言われます。でも、3時間ゴロ捕球だけを、それを1週間やり通せば他校に負けない自信がつきます。それは勉強でも同じで“積み重ね”が自信になるんです」
何のための練習か? どんな選手になりたいのか?
その意図を持つだけで、練習の短さはハンデではなくなる。エースの高下耀介に対しても「どんな投手となるべきか?」を話し合ってきた。そして、自分たちで考えて臨機応変にシフトを変えられる守備陣がいることも踏まえて、球速にこだわるのではなく“試合全体をコントロールできる投手”を目指して打たせて取る投球を磨いてきた。