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平成元年と令和元年のオールスター。
村田兆治のガチさ、サイクルの緩さ。 

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中溝康隆

中溝康隆Yasutaka Nakamizo

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photograph byYasutaka Nakamizo

posted2019/07/19 11:30

平成元年と令和元年のオールスター。村田兆治のガチさ、サイクルの緩さ。<Number Web> photograph by Yasutaka Nakamizo

「セ・リーグ」「パ・リーグ」というレアなパネルが見られるのもオールスターならでは。

近本のサイクルに拍手を送る雰囲気に……。

 試合は次第に雨が強まる中、地元阪神勢の一発攻勢で5連敗中の全セが初回からリード。原口文仁の2夜連続弾に甲子園は沸いた。さらに筒香嘉智や鈴木といった役者が揃い踏みし4回までに二桁得点。イニング間には阪神園芸の方々も匠の技でグラウンド整備に励む。

 そして7回裏2死一塁で、あのシーンがやってくる。三塁打が出ればサイクル安打の虎のルーキー近本光司の第5打席、放った打球は前進守備(報道によると外野席の観客から「前に行け」という声もあったという)のレフトを越え、中継プレーももたつき、近本は三塁到達。古田敦也(ヤクルト)以来史上2人目の球宴サイクル安打を達成する。

 お祭りだからこそ笑いもOKなのか、夢舞台に水を差す行為なのか、試合後に物議を醸したサイクル達成だが、その瞬間に甲子園の観客の多くが盛り上がっていたのは事実だ。

 終盤で試合の行方もほぼ決していたし、選手もファンも“それ”を前提に楽しむピースフルな空間。オールスター戦ってマニアサービスじゃなく野球ライトユーザーも含むファンサービスだもの。

 みんなで応援歌を歌って跳ねての“夏フェス化”が進む近年の球宴もついにここまで来たんだな……と頭では理解しているつもりでも、忖度サイクルに拍手を送るスタンドの雰囲気に軽く引いてしまい帰り支度をする自分がいた。

古田のサイクル阻止に飛びついた秋山の守備。

 勘違いしないで欲しいが、新人で本塁打を含む5安打を放った近本は凄い。それはそれ、これはこれだ。

 だが、平成初期の1992年オールスター第2戦の古田敦也のサイクル安打は、第5打席の中越え二塁打で記録達成だったが、センターを守る秋山幸二は「やらせるもんか」的に外野フェンスに激突しながら必死に飛びつき阻止しようとしていた。

 それが2019年の全パ守備陣は「どうぞやってください」というようなユルい守備で記録をアシスト。セ・パ交流戦もなかった時代、今より真夏の祭典にも意地の張り合いと緊張感があったのは間違いないだろう。

【次ページ】 平成元年の村田兆治はもちろんガチだった。

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