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名波浩が愛する磐田に残したもの。
「これからも応援をよろしく頼む」
text by
望月文夫Fumio Mochizuki
photograph byJ.LEAGUE
posted2019/07/04 11:50
川崎戦後に辞任を表明した名波浩。昨季から続く不振を脱することはできなかった。
名波が打ち出した新鮮なマネージメント。
J1昇格を最大ミッションとして、開幕から指揮を執った監督2年目。OB監督のユニークなマネージメントが始まった。まず選手たちに伝えたのは、「仲良しクラブになってもいいから、先輩が後輩を誘うなどして一緒に飯を食いに行ってほしい」だった。それまでのチームは、「プロはピッチ上で結果を出せばいい」という強い意識もあってか、多くの選手が練習を終えればすぐに練習場を離れ、それぞれがバラバラに過ごしていた。
そこで新指揮官は、「一緒にいることで、お互いのサッカーに対する考え、どういうプレーをするかがより理解できるようになる。チームメイトのこと、チームのことを思うようにもなる。そこでのコミュニケーションが、必ずピッチ上にもいい影響をもたらしてくれる」という狙いをもって、選手たちに伝えたのだ。
そして周囲を驚かせたのは、試合前日を含めた練習日をすべて記者にもファンにも公開したことだ。それまでの磐田はもちろん、他の多くのクラブが非公開日を設けている中で、名波監督は「試合では多くの人の視線を受ける。練習からプレッシャーの中でやったほうがいい」という持論を展開。
内外から「情報が洩れる」という懸念もあったが、「スタメンやフォーメーションを知られても、勝敗には影響ないだろう」と笑い飛ばすこともあり、クラブとしては180度の方向転換だった。
選手にもファンサービスを徹底。
さらに選手たちに課したのが、練習後のファンサービスだ。指揮官自身の現役時代はお世辞にも対応が良かったとは言いがたいが、スター選手が揃った当時は黙っていても集客ができた時代。しかし状況は変わった。
「この日しか練習場に足を運べない人、遠方から出向いてくれる皆さんに対応が悪かったら申し訳ない」
指揮官の申し出に、選手たちは快く応じた。
効果はてきめんだった。それまでは多くて数十人、少ない日は数人だった練習場に出向くファンの数は、しばらくすると何倍にも膨れ上がった。練習場に詰めかけたファンの喜ぶ顔は、また選手たちのモチベーションも上げてくれる。選手たちは「誰かが見てくれている。だからやらないといけないと思う」と声を揃え、試合への前向きな姿勢が引き出されていった。