松岡修造のパラリンピック一直線!BACK NUMBER
修造、感動!ボッチャ廣瀬隆喜は
審判の母、チームと共に戦い続ける。
posted2019/07/08 07:00
text by
松岡修造Shuzo Matsuoka
photograph by
Yuki Suenaga
松岡修造が、パラアスリートと真剣に向き合い、その人生を深く掘り下げていく「松岡修造のパラリンピック一直線!」。第5回のゲストは、ボッチャの廣瀬隆喜さんだ。
対談は、廣瀬さんと松岡さんがボッチャの対戦をしながら、松岡さんが気になったことを廣瀬さんにどんどん聞いていくスタイルとなった。話には母親の喜美江さん、スポーツアナリストとして戦術や動作分析に携わる渋谷暁享さん、それに多方面でアスリートのマネジメントやサポートをしている三浦裕子さんの“チーム廣瀬”も加わって大変にぎやかな様子。そして、松岡さんが大逆転を狙ったスローは失敗に終わり、廣瀬さんの勝利となった。
松岡「残念ですが、負けを認めます……。そうだ、廣瀬さん、1つお願いが。3つ固まっているボールの上に自分のボールを載せる必殺の『よっこいしょスロー』をやって下さい!」
廣瀬「できるかな……やってみます!」
廣瀬さん、松岡さんの言葉に応じて狙いを定めてスロー。しかし、2回続けて失敗してしまう。ピンポイントで狙ったラインに、絶妙の力加減でボールを転がし、3つ固まったボールの上にボールを載せるのはパラリンピック・メダリストであっても難しいようだ。3回目で見事にボールが“よっこいしょ”と上に載っかり、そのまま停止した。体育館が拍手で沸いた。
廣瀬「できてよかったです(笑)」
松岡「なんだかちょっと安心しました。日本のエースにして、正確に投げること自体が難しい競技なんですね。平面で戦況を見ながら、高さを使った3次元的なボールも投げないといけない。いやいや、ボッチャは本当に奥が深いですね」
渋谷「今、ボッチャの戦術が世界的に進歩していて、リオで廣瀬君たちがこういうトリッキーなプレーをしたんですけど、次の大会ではもうみんながそれを真似してくるんです。だから、こちらとしてはどんどん新しい戦術を考えていかないといけない」
松岡「ではアナリスト・渋谷さんにとって、ボッチャの魅力って何ですか」
渋谷「良い意味で完成されていない競技なので、次々と新しい課題が出てくるところです。すごく知的好奇心を満たしてくれる競技です。
それに、廣瀬さんとずっと一緒にがんばれているのは、廣瀬さん自身のプレースタイルや、考え方に僕が共鳴しているからです。そうそう松岡さん、僕の中でボッチャというスポーツは、モータースポーツのF1に近いくらい緻密な競技だと思います」
松岡「F1ですか!」
渋谷「ボールにもこれだけ種類があって、車いすが彼らにとっての手足で、それを設計段階から1つずつ積み重ねていく。それこそ前輪の口径一つにしても、クッション一つにしても、研ぎ澄ませていく過程はものすごく緻密で、正直どこまでやっても終わりがない。体の動きや戦術だけではダメで、すべてを複合的に考える必要があるんです」
松岡「じゃあ廣瀬さんは、F1レーサーですね」
廣瀬「ハハハハ」
廣瀬隆喜(ひろせ・たかゆき)
1984年8月31日千葉県生まれ。先天性の脳性麻痺で、四肢体幹機能障害を抱えている。養護学校の中学部でビームライフル、高等部で車いす陸上に打ち込み、その後ボッチャに出会う。始めて4年で日本ボッチャ選手権で初優勝し、これまでBC2クラスで7度王者に輝く。2008年北京(個人、団体ともに予選敗退)、2012年ロンドン(個人2回戦敗退、団体7位)、2016年リオとパラリンピックに3大会連続出場し、リオでの個人戦では準々決勝敗退で7位入賞、団体戦で銀メダルを獲得した。西尾レントオール株式会社所属。
渋谷「本当にそうなんです! それくらい繊細なんですよ。フォームを調整するにしても、動きだけで変えようとするとうまくいかないんです。時には食事が原因だったり、水分量が足りないからだったり、私以外にも理学療法士さんがいて、彼女のケアも本当に大切な要素です。いまのところ、チームでうまく前進できています」
松岡「まさにチームスポーツなんですね。食事や水分量って、どういうことですか?」
廣瀬「実際にチーム戦だと、試合時間が1時間を超えることもよくあるんです。試合中、ずっと集中を切らさずにやるのは難しくなってくる。栄養不足や水分不足というのは、集中を切らしてしまう要因になるんです。だから今、食事についても色々と相談しながら改善していってます」