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相撲のビデオ判定はあくまで「目安」。
ハイテク偏重の前にあった先人の知恵。
posted2019/06/12 11:30
text by
荒井太郎Taro Arai
photograph by
Kyodo News
トランプ米大統領の観戦で日本中、いや全世界で大きな注目を浴びた先の大相撲夏場所で賜盃を抱いたのは前頭8枚目の朝乃山だった。
場所前半は横綱鶴竜と大関返り咲きを目指す関脇栃ノ心がともに盤石の相撲で勝ちっぱなし。優勝戦線はこの両者を軸に展開されるかと思われたが、ともに後半は崩れた。その間隙を縫って優勝候補に浮上したのが平幕の朝乃山であり、13日目に組まれた栃ノ心対朝乃山戦はいろいろな意味で場所の流れを大きく左右する一番となった。
この場所で10勝すれば大関復帰となる栃ノ心は10日目に早々と9勝目を挙げながら翌日から平幕に2連敗を喫し、暗雲が垂れ込めてきた中でこの一番を迎えた。
一方の朝乃山は2敗で鶴竜とともにトップを並走。この日も快進撃の勢いそのままに、立ち合いで左上手を取ると一気の出足で元大関を土俵際に追い詰めた。
しかし、俵伝いに右に回り込んだ栃ノ心は左で相手の頭を押さえつけながら右から掬い投げ。朝乃山は腹這いの状態で土俵に叩きつけられ、待望の10勝目を確信した栃ノ心は右手で小さくガッツポーズを作ったが、すぐさま物言いがついた。
ビデオの拡大画像でも分からず……。
栃ノ心が土俵際で投げを打った際に右足踵が出ていたのではないか。
テレビ中継でもその場面をスローVTRで何度も流していたが、栃ノ心の右足踵が俵の外に敷き詰められた蛇の目の砂を払った形跡ははっきりとは確認できず、拡大画像でも俵の上に乗った踵は浮いているように見えた。
物言いをつけたのは勝敗のゆくえを目の前で見届けていた西土俵下の放駒審判委員(元関脇玉乃島)で、軍配が栃ノ心に上がったとほぼ同時に右手を挙げていることがテレビ中継の画面でも確認できる。
審判団の協議は異例の長さとなる約6分にも及んだが、栃ノ心の右足が出るか出ないかのタイミングと朝乃山の体が落ちるのでは明らかな時間差があり、同体取り直しはあり得ない。
審判団は難しい決断を迫られたが結局、軍配差し違えで朝乃山の勝ちとなった。