オリンピックへの道BACK NUMBER
萩野公介のメンタルが戻ってきた。
“水泳が嫌”から「もっと泳ぎたい」。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byKyodo News
posted2019/06/11 11:30
休みの間は海外旅行でリフレッシュした萩野。8月か9月での大会復帰を目指すという。
「水泳が嫌いになりつつある」
休養を決断した理由を語る中で、練習をしているのにも関わらず試合で結果が出ないことに「辛いと思っていました」と明かす。さらに休養を決める前に、平井氏に「水泳が嫌いになりつつある」と打ち明けたことも明かしている。
練習にしっかり取り組んでいても、大会で思うような成績を挙げられない。その要因は、複合的なものだったのかもしれない。リオ五輪で頂点に立ち、しっかり練習しているつもりでも、リオの前とは心持ちに違いがあったのかもしれない。
無理もない。小さな頃から泳ぎ続けてきて、怪我などはともかく、長く休んだことはなかった。求めていた結果を手に入れたものの、知らず知らずのうちに消耗していた面もあったのだろう。
それでも今まで、その疲労ぶりをうかがわせなかったのは、萩野の競泳に対する真摯さだ。ただ、それに耐え切れず限界を迎えて「悲鳴」をあげた結果が休養という選択だった。
五輪の目標は複数種目での金メダル。
思い起こせば、3月に発表したコメントの中に、こんな言葉もあった。
<自分が「こうありたい」という理想と現実の結果の差が少しずつ自分の中で開いていき、モチベーションを保つことがきつくなっていきました。>
理想の自分と現実の自分とのギャップ。それに対する苦しみを抱えていたことが読み取れる。つまり、矛先は「できない自分」へと向けられていたのだ。自分と向き合わざるを得ない個人競技だから、なおさら、「水泳が嫌いになりつつある」だけでなく、自分自身をも嫌になる。これまで幾度となくそんな局面があったのだろう。
それでも、萩野は戻ってきた。自らの意思であえて水泳から離れることで、泳ぐことの意味を確認することができた。距離をとったから、知ることができた。もう迷うことはないだろう。
「東京オリンピックの目標は、複数種目の金メダル」
目指すところをはっきりと口にし、もう照準がぶれることはない。