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グランパスの何が革新的なのか。
風間サッカーの“翻訳”を試みる。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byKeiichiro Natsume
posted2019/06/07 08:00
名古屋就任3年目を迎える風間八宏監督。直近2試合は連敗を喫するも、第14節を終えて、リーグ4位につけている。
システムではなく「枠」。
大前提として、風間監督はこう言い切る。
「そもそも私の頭の中に、システムはないんですよ。枠組でしかない。全員がストライカーであっていいし、全員がDFであっていい。逆に言うとゲームメイカーもいないし、中盤の選手もいない。つまりポジションの概念もゼロなんです」
この「枠」というのは、名古屋に来てから生まれた新たな風間語録の1つだ。
狭いエリアに敵を閉じ込めるイメージで、たとえボールを失っても「枠」から出る前に奪い返してしまう。
実際の試合では、左センターバックの丸山祐市が最後尾に位置し、その斜め前にボランチのジョアン・シミッチと右センターバックの中谷進之介がいることが多い。それ以外のフィールドプレーヤー7人が、ペナルティエリア周辺へ押し寄せて行く。
左サイドバックの吉田豊と右サイドバックの宮原和也が「枠」の両端となり、2トップのジョーと長谷川アーリアジャスール、左右MFの和泉竜司(もしくはマテウス)とガブリエル・シャビエル(もしくは前田直輝)、ボランチの米本拓司が内部で自由に動き回る。
名古屋のロンドは格闘技。
ライカールトがバルセロナを率いてCLを制した時代、ロナウジーニョ、デコ、エトーがピッチを自由に動き回り、そのサッカーは「巨大なロンド(ボール回し)」と形容された。太鼓を叩きながらダンサーが踊っているようなド派手なサッカーだ。
今の名古屋はそのロンドのエリアを、さらに狭いエリアにぎゅっと押し込んだ感じである。息ができないような早い展開になり、ダンスよりも格闘技に近い。
特筆すべきは中谷の動きだ。枠ができるまでは丸山と最後尾を固めているのだが、枠ができたと判断すると、ときにサイドバックかのようにライン側に近づいてパス交換に参加し、ときにトップ下かのように最前線へ走る。“エキストラプレーヤー”として驚きを与える。
あくまでこれは“よくある形の1つ”で、シミッチが後ろに残って丸山が前へ走ることもあれば、中谷が残ることもある。決まった形は存在しない。風間監督は「アメーバのように変化する」と表現する。
「それぞれ役割が決められているわけではなく、枠の中で全員が流動的にどんどんボールに絡んで行くサッカー。常に流れに乗れることが大事になる」