オリンピックPRESSBACK NUMBER
「J最強の企画屋」は伊達じゃない!
ガンダムを宇宙に飛び立たせるまで。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byToshio Ninomiya
posted2019/06/06 11:00
左から金井宣茂さん、ドズル・ザビ……ならぬ室伏広治さん、富野由悠季さん、中須賀真一さん。
「白いと言ったら、ガンダムしか……」
天野は言う。
「2014年のソチ冬季オリンピックで、ロシアの宇宙飛行士がトーチを持ってISSの船外に出て大会を盛り上げるという企画がありました。あれ以上のインパクトとなると、応援衛星しかないんじゃないかと思って。でも単純に飛ばすというだけじゃ、企画としては物足りない。日本の文化や技術を使って日本をPRしたい。じゃあ応援衛星と何をコラボさせたらいいか、そこがまったく思いつかなかった」
通勤時間も、ランチタイムも、自宅に戻って風呂に入っても考えた。布団のなかでも「うーん」とうなり続けた。
オリンピック憲章の「開会式および閉会式」の「開会式」には「聖火への点火につづいて、平和を象徴する鳩が解き放たれる」とある。近年は鳩をオマージュした企画が打ち出されている。
白い鳩をオマージュしたものがいいかなとも考えたが、これだと「日本の文化」が完璧にはマッチしない。
「鳩、白い鳩、白い、白い何か……」と頭を悩ませているときに、よく相談に乗ってもらっている経営者の知人に喫煙ルームでアドバイスを求めたという。
「白い何か、ってなあ。白いと言ったら、ガンダムくらいしか思い浮かばないよ」と、煙草をふかしながら冗談っぽく言われた。
その一言に、バチンと来た。難解な因数分解が、一度に解けた気がした。
そうだ、ガンダムだ!
超小型衛星の権威も実はガンダムファン。
天野は行動の人である。思いつくまでは長いが、思いついてからは速い。
最初は衛星事業を展開するメーカーに相談したという。しかし莫大なコストと時間が掛かることを知り、方針転換を余儀なくされる。しかし何をするにしてもいつも出だしはこんなもの。へこたれる時間すらもったいない。
程なくして、日本の技術が結集された超小型衛星の存在を知る。コストをかなり抑えられ、かつ、1年ほどで完成できるという。ここに望みをかけた。
権威として知られる中須賀教授にアポイントを取りつけ、開発の協力を願い出た。多忙な中須賀教授に、ダメもとのお願い。ありったけの熱意を伝えた末に、熟慮した教授の口から「いいです、やりましょう」の言質を得ることができた。
というのも、中須賀教授自身が大のガンダムファンだというのだ。これは天野も持っていなかった情報であった。