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MLB屈指の理論派は高校野球を肯定。
菊池雄星に秘伝を授けたバウアー。
text by
木崎英夫Hideo Kizaki
photograph byAFLO
posted2019/05/30 11:45
菊池は開幕当初こそ勝ち星に恵まれなかったが、12試合に投げて3勝2敗、防御率3.82と安定している。
バウアー直伝のチェンジアップ。
菊池の胸にも同じような思いがある。それを披瀝したのは、疲労軽減策から4月26日のレンジャーズ戦で1イニング限定の“ショートスタート”を終えた夜だった。
「この形を喜んでいるようでは投手としてどうかなっていうのは正直あります。しっかりとシーズン通して投げ切ること。それをするのが自分の責任というのを改めて投げ終わって感じました」
バウアーと再会後、最初の登板となった5月7日の敵地ヤンキース戦で、菊池はこれまでで最も多い10球のチェンジアップを投じている。内野ゴロに仕留めるなどこの球種を効果的に操っているように見え、それこそバウアー直伝の握りの成果と思われたが、その推測はいとも簡単に斥けられる。
「練習しましたけど、僕には合わないです。これまでの握りで投げてました」
スプリットと同じ「人差し指と中指」の間にボールを挟み、打者に直球と思わせる軌道を理想とする菊池のチェンジアップに対し、「中指と薬指」の間にボールを挟んで投げるのがバウアー流だ(写真)。
これだとリリース時に最後、中指でボールを押し込むことができ、横回転が掛かり低い軌道でボールが落ちる。バウアーは「ボールが浮く原因になるバックスピンがかからないように試行錯誤を繰り返して行き着いたのがこの握りだ」と歯切れよく解説した。
3種類のスライダーを投げ分けて。
菊池は19日の本拠地ツインズ戦で直球を軸に強力打線をねじ伏せると、その日の会見を「相手の力を上回る気持ちを持たないとこの世界では生き残っていけない」との言葉で結んでいる。
自信を持つスライダーは、三振を狙う曲がりの大きいもの、カウントを稼ぐカット気味のもの、さらには日本時代には1球も投げていないという右打者の外角からゾーンに入るバックドアのものと、3つを投げ分けられるようになった。
また、硬いマウンドとボールへの適応や、縦に割れるカーブの安定もあり、4月に顕著だった試合序盤の不安定な投球も払拭した。