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MLB屈指の理論派は高校野球を肯定。
菊池雄星に秘伝を授けたバウアー。
posted2019/05/30 11:45
text by
木崎英夫Hideo Kizaki
photograph by
AFLO
5月5日の昼下がり。クリーブランドのダウンタウンに立つ高層ビルは霧に包まれていた。
プログレッシブ・フィールドの左中間スタンド後方に浮かぶその幻想的な風景を背に、外野の芝の上で談笑をしていたのが、インディアンスのトレバー・バウアー(28)と通訳を伴ったマリナーズの菊池雄星(27)だった。
吹きすさぶ寒風も意に介さず、身振りを交えるバウアーに菊池が頷くのが遠目にもわかった。
2人が初めて言葉を交わしたのは、菊池が本拠地シアトルのT-モバイル・パークで登板を終えた2日後の4月17日だった。報道関係者もまだまばらな時間に、バックネットの端で30分以上もの会話を楽しんでいた。
この時、菊池はキャンプから試行錯誤を繰り返していたチェンジアップについて、バウアーにアドバイスを求めている。
生体力学に基づいたトレーニング。
ロサンゼルス生まれで大学野球の名門、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)出身のバウアーは、2012年にダイヤモンドバックスでメジャーデビューを果たし、今季5年連続の2桁勝利を目指す、上り調子の右腕だ。
オフになるとシアトル近郊の街ケントにあるトレーニング施設「ドライブライン」で、生体力学に基いた理想的な投球フォームを模索。最先端データ機器を使った独特なトレーニング法で注目を集めている投手でもある。
一方、菊池について、マリナーズで今季からデータ分析と投球向上の指導役を担うブライアン・デルーナスコーチがこんな言葉を寄せる。
「春のキャンプから日々、出されるデータと向き合い、それを投球に生かす“咀嚼力”には驚かされた。彼の学習意欲と理解力に触れると、ただ者ではないという気になった」
菊池は西武時代の昨年から、神事努氏(國學院大學人間開発学部健康体育学科准教授)と契約を結び、最新機器を使って収集した映像データと照合しながら、ボールの握りや手首の角度、リリースポイントなどに注視して理想の軌道を生む投球動作の構築に取り組んでいる。