テニスPRESSBACK NUMBER
下克上を狙われる立場の錦織圭が、
全仏初戦で取り払った不安要素。
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byGetty Images
posted2019/05/28 11:30
錦織圭といえば驚異の粘り腰が持ち味だ。ただ全仏初戦のように、ストレート勝ちできるならばそれに越したことはない。
錦織は下克上を狙われる立場に。
ここ数年、錦織はよく男子テニスの層の厚さに言及している。
今大会の開幕前には「数年前まではトップ20か30以下の選手には、人にもよりますが、そこまで脅威を感じなかった。(今は)30、40位以降がすごく強くなっているように感じる。70、80位くらいまでは、だれがトップに勝ってもおかしくないレベルになっている」と話した。
脅威を感じていたからこそ、右手首の故障からの復帰を目指した2017年の終わりには「生き残っていかなくてはならない」と覚悟を新たにしたのだ。ランキングが伴わなくても、潜在能力では上位と遜色ない選手がごろごろいると見ているのだろう。
だから、苦戦しても、相手も強かった、と試合後には折り合いをつけていたのではないか。
錦織の過去の名セリフをもじって言えば、「弱い相手ももういない」時代ということになる。
そうした対戦相手が、トップ10プレーヤーの錦織に牙を剥いてくる。率直に言って、全仏でのラファエル・ナダルやジョコビッチのような難攻不落の城よりも、プレーに波がある錦織なら下克上のチャンスもあると見る選手もいるだろう。
今の錦織はそんな厳しい環境下にいる。
「自分のプレーが相手を焦らせた」
その中で、地元の声援を受けるフランス選手との初戦を失セット0で切り抜けた。
「反省点はほぼなかったです。プレーはよかったので。相手のミスが早かったのは、自分のプレーが彼を焦らせたところもあった。この2カ月くらいのクレーの中ではよかったので、自信になりました」
とポジティブな感触が残ったことがなによりだ。苦戦を切り抜けても、味わったイヤな感じはその後も残る。冷や汗をかかされる場面、集中力をぎりぎりまで高める場面が増えれば精神的な疲労が溜まる。