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崖っぷちから初戦突破の大坂なおみ。
右耳のピアスに込められたお茶目さ。
posted2019/05/29 17:00
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph by
AFLO
1年前の大坂なおみは、未来の女王候補とはいえまだ世界ランク20位のチャレンジャーだった。
この1年で全米、全豪とグランドスラムの2大会連続優勝を遂げ、世界ナンバーワンとなってローラン・ギャロスに戻って来たものの、ここのセンターコートはこれが初体験だ。
いつものように顎をクイッと上げてスタンドを軽く見回す。空席が目立った。平日で悪天候とくれば無理もないが、それだけではなかったのかもしれない。パリのファンは、赤土で、このローラン・ギャロスで実績を残していない選手に対してどこか冷めているのだ。
全仏での大坂の過去最高成績は3回戦。クレーはもっとも苦手なサーフェスと見られている。数日前、元女王のマルチナ・ナブラチロワはWTAの公式サイトに「ナオミ・オオサカのグランドスラム3大会連続優勝の可能性は十分あるが、他の選手にとって彼女を倒すチャンスが大きいのはこの全仏オープン」という内容のコラムを寄せていた。
試合中ずっと緊張感が続いていた。
試練はこうした前段のムードから始まっていたのだろうか。開幕の2日前、世界1位という立場の居心地の悪さはもう感じないと言い、大舞台にはめっぽう強いはずでもある大坂だが、すっかり平常心を失ってしまった。
動きが鈍く、力んでミスを繰り返す。グランドスラムは3回戦が最高成績という世界ランク90位のアンナ・カロリーナ・シュミドローバに対して、1ゲームも取れずに第1セットを落とした。“ベーグル”をつけられたのは、昨年のローマで当時世界1位のシモナ・ハレプに1-6、0-6で敗れたとき以来だ。
「いつもはコートに入れば緊張感はほどけるのに、今日は試合の間じゅう続いていた感じ。これはもう気持ちの勝負だなと思った」
精神的な闘いは続いた。第2セットは第2ゲームをブレークしてようやく自分を取り戻したかと思いきや、第5ゲームでブレークを許すと、第9ゲーム以降はブレークされては追いつくという苦しい展開。相手のサービング・フォー・ザ・マッチを2回しのがなくてはならず、マッチポイントこそ握られなかったが、第12ゲームは息詰まる3度のデュースの末のブレークバックだった。
崖っぷちでも逃げずに攻め続けたのはさすがだったが、相手のミスに随分助けられたことも事実。こうしてなんとかタイブレークに持ち込み、セットをものにすると、最終セットは6-1と一方的にゲームを重ねた。