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悪夢再び、CL大逆転負けのバルサ。
「偶然」とは言えない敗因を探る。
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph byUniphoto Press
posted2019/05/15 11:45
メッシの力で相手をねじ伏せている時はいい。しかしそれができない時のバルサは、あまりに脆い。
ペップ時代にあった明確な哲学。
バルサらしさの喪失──。
ジョゼップ・グアルディオラが監督だった10年前、「バルサとはどんなチームか?」と問われれば、きっと誰もが迷わずこんな風に答えたはずだ。
「ボールプレーを大切にするチーム」
「繋いで繋いで、さらに繋ぐチーム」
「どんな相手に対しても主導権を握り続けるチーム」
明確なカラーが、揺るぎないフィロソフィーが、そこにはあった。
もちろん時代は流れ、サッカーのスタイルも変化した。もはや10年前のバルサの「スローテンポなパスサッカー」で、フィジカル能力に秀でた選手たちがスクラムを組んで突進してくるような現代の守備組織は崩せない。求められるのは、攻守が切り替わったその瞬間を逃さず、一気に縦方向へとボールを運ぶスピーディーなアタックだ。
変化自体はネガティブではないが。
とりわけルイス・エンリケが監督に就任した2014-15シーズン以降、「横」よりも「縦」を意識するようになったチームは、現在のエルネスト・バルベルデ政権下で、さらにインテンシティーと効率性を求めるようになった。
そうした変化は、決してネガティブな反応ではない。ペップがもたらした特大の成功が、別の道を選択する上でむしろ邪魔になる可能性もあったはずだが、彼らは勇気を持って時代の流れに身を委ね、現代風にそのスタイルをアレンジしたのだ。
かつてのようにボールポゼッションに囚われることなく、いつしか即時奪回からのショートカウンターをひとつの武器とするようにもなった。
ただし、クラブとしてのアイデンティティーまで蔑ろにしてしまっては、本末転倒だ。
それは、1つひとつ丁寧にシャリを握っていた腕のいい寿司職人が、効率性を求めて回転寿司店に鞍替えしてしまったような感覚に近い。手間暇かけずとも収益は上がるし、もしかしたらそれほど味も落ちないのかもしれない。けれど、オリジナリティーは確実に損なわれた。