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長谷部とフランクフルトの旅の終焉。
ELの残酷なPK決着、街は一色に。
text by
島崎英純Hidezumi Shimazaki
photograph byGetty Images
posted2019/05/14 17:00
長谷部誠とフランクフルトの偉大な挑戦はELベスト4で幕をおろした。残す最終節に来季のCL・EL出場権がかかっている。
国際色豊かな街が、この日は地元一色に。
第1戦はフランクフルトのホームゲーム。コンメルツバンク・アレナのチケットは早々にソールドアウト。従って、スタジアムで観戦できないファン、サポーターは街中のパブやバーに繰り出して声援を送ります。ちなみに試合当日のスポーツバーの席予約も埋まっているというから驚きです。
試合2時間前くらいに辺りを通ったら、お店に入れない方々がキャンセル待ちの列をなしているのが見えました。店員とお客さんがやり取りする会話が聞こえてきました。
「予約してないって? じゃあ、今日は無理だね。他に行ってもらえるかな」
いつもは愛想のいい店員のお兄さんも、あまりの忙しさで眉間にシワが寄っています。フランクフルト中心部は旅行者も多いので普段はコスモポリタン的な雰囲気なのですが、この日ばかりは地元色に染まり、チェルシーサポーターは肩身が狭かったことでしょう。
フランクフルトのチームカラーは赤、白、黒なのですが、この3色の組み合わせはいい意味で威圧感があります。今季はホームが黒色なので、レプリカユニホームを着た集団に遭遇すると、どこかのバイカー集団のようにも見えて大迫力です。
欧州で戦う上で選手層は厚くない。
試合開始が近づくと、四方のスタンドに陣取ったサポーターは椅子に据えられた旗や色紙のようなものを頭上に掲げます。今回は黒と白を基調にした壮麗なビジュアルサポート。ちなみに、使用する装飾品は普段のゲームでサポーター有志が観客から募った寄付により用意するのだそうです。
周囲が騒然とする中、フランクフルトは満身創痍のチーム状態に陥っていました。攻撃の起点として絶大な存在感を放っていたFWセバスチャン・アレが腹部付近の肉離れで戦線離脱。また、クロアチア代表FWのアンテ・レビッチは前回のベンフィカ戦で累積警告となり出場停止。
フランクフルトの強力攻撃陣を支えるふたりがピッチに立てず、ゴールの責務は大エース、FWルカ・ヨビッチに委ねられていました。
相対的にフランクフルトは選手層が厚いとは言えません。ドイツではリーガとカップ戦の2大会が開催され、カップ戦で敗退すれば1週間に1試合のペースでゲームを消化する日々が続きます。
バイエルンやドルトムントのようにヨーロッパ・カップ戦出場の常連は2チームが作れるほどの戦力を揃えますが、フランクフルトのような中堅は多くの選手を保有する資金的余裕がなく、今回のように思いがけずELで上位進出を果たすと限られた選手たちがタフな戦いを強いられるのです。