プレミアリーグの時間BACK NUMBER
マンCのプレミア連覇を濃厚にした、
主将CBコンパニ「運命」の一撃。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2019/05/11 17:00
2008年にマンチェスター・シティに加入したバンサン・コンパニ。今季初ゴールとなった豪快な一撃でリーグ連覇に王手をかけた。
古株コンパニは「俺たちの1人」。
現在のマンCにおいて、仲間たちに勇気を与え、士気を高める得点者としてコンパニの右に出る選手はいない。主力のベテラン組に属するアグエロやダビド・シルバ、新世代でトップクラスへ一皮剥けたラヒーム・スターリングでも及ばない。
同じくキャプテンマークを付けたCBの得点と言えば、チェルシーで「キャプテン、リーダー、レジェンド」と称えられたジョン・テリーのゴールが思い出される。DFとしてプレミア歴代最多の41得点を記録したテリーは、マンUを1ポイント差で抑えた9年前の優勝争いにおいても、ライバルとの直接対決で勝敗を分けるゴールを決めている。
だが、テリーがFKからのクロスにジャストミートしたヘディングよりも鮮やかで、より重みがある1点を決めたコンパニは、ファンの心を揺さぶる力にかけてもテリーに引けをとらない。
チェルシー同様、マンCも短期間で強豪に成り上がった多国籍軍団だけに、コンパニは貴重な生え抜きというわけではない。それでも、10日だけの違いとはいえアブダビ資本によるクラブ買収前に獲得された唯一の選手だ。
巨額の移籍金で買い取られたわけでもない。600万ポンド(9億円弱)という移籍金は、買収完了を受けて獲得されたロビーニョの5分の1にも満たない。当時22歳のベルギー代表DFはチームの第一人者となることなど期待されてはいなかった。その立ち位置から支柱として不動の地位を築くに至ったコンパニは、ファンが「俺らはマン・シティ。諦めずに戦い抜くぞ!」と歌い上げる不屈の精神を体現する存在であり、「俺たちの1人」として最も共感をそそる古株と言える。
“サヨナラ・ゴール”に?
マンCレジェンドとしてのステータスを絶対的なものとしただろうミドルは、33歳のCBにとってエティハド・スタジアムでの“サヨナラ・ゴール”になるかもしれない。今季最後のホームゲームで恒例の場内一周中、テレビカメラが捉えた涙が、なおさら観る者に運命を訴えかけた。
今季末で満了する契約が延長される可能性はある。当人も「まだまだプレーを続ける」と引退説を否定している。所属10年を超えたコンパニの功労を称える親善試合が9月に予定されていることを考えれば、1年間の新契約締結が自然な流れと言える。その可否を左右する指揮官も「今季終了後に話し合って、ベストな選択を下すことになっている」と語っている。
ただし、グアルディオラにとってのコンパニは「最高のリーダー」であっても、最適のCBとは言い難い。最終ラインの中央にMFのような能力を求める監督に対し、コンパニは空陸両用とはいえ古いタイプのCBだ。グアルディオラ体制となりジョン・ストーンズ、アイメリック・ラポルテと20代前半の「足元派」が加わるたびに、コンパニのフェードアウト説が囁かれてきた。
そのうえコンパニは若い頃から筋肉系の怪我が絶えない。
先のレスター戦では、前半早々9分にリカルド・ペレイラのシュートをスライディングで防ぎ、後半ロスタイムにはペレイラのFKを弾き返すなど本職の守りでも存在感を示し、MVPと言えるパフォーマンスを披露している。3試合連続フル出場し、4試合連続の完封勝ちに貢献した。
しかしながら、シーズンを通して見るとリーグ戦の先発は12試合にとどまっている。現時点の守備陣のキーマンは、レスター戦が今季33度目の先発となったラポルテだろう。周囲の制止を抑えてミドルを放ちながら、試合後には涙を抑えられなかった当人の胸には、ホーム最後のリーグ戦という覚悟と、その一戦で観衆に勇姿を披露できた感慨があったのではないだろうか?