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大坂なおみは赤土を克服できるか。
「ゾンビモード」でマドリード16強。
text by
長谷部良太Ryota Hasebe
photograph byGetty Images
posted2019/05/08 11:40
得意のハードコートでは世界一を証明した大坂なおみ。クレー、芝でも自分の力を発揮すれば、勝利は見えている。
第2セットまでで3度もラケットを地面に。
さらにストレスがたまる展開となったのが、ジェンキンス・コーチの助言を受けてから始まった第2セット。第1セットと同様、大坂は先にブレークしたものの、リードを守れず3-3と追い付かれてしまう。
見事なバックハンドのジャンピングショットを打ち抜いたかと思えば、万全の体勢から決めにいったフォアをネットに掛けるなどプレーは不安定。叫んだり、日本語で文句をつぶやいたりして、ベンチではタオルを頭からかぶって考え込んだ。
最後は明らかに集中を欠いた様子で、第2サーブを大きく外してセットを落とした。この時点までで、既に3度もラケットを地面に投げつけている。
実力差のあるソリベストルモに大いに苦しめられた理由が、クレーでの戦いに慣れている相手の粘り強い戦術だった。自分からはほとんど決定打を狙わず、バックのスライスや高く弾ませる球を多用。守備範囲が広くミスを最小限に抑えながら、大坂が根負けするのをしぶとく待つスタイルを貫いた。
「ポイントはどれも、私のアンフォーストエラーかウィナーで決まっているような感じだった」と大坂。会心のショットが決まる喜びよりも、凡ミスを悔やむことによる負のエネルギーをため込んでしまったようだ。
「ゾンビモード」とは何か。
少し前の彼女だったら、ここで崩れていたかもしれない。でも、今は違う。最も重圧が掛かる四大大会の決勝を、2度も勝ち抜いた精神的な強さがある。ふがいない第2セットが終わった後、気持ちを切り替えるようにしてバッグから新しいラケットを取り出すと、主審にひと言を告げてトイレ休憩を取った。
5分もたたずに戻ってきた大坂は、吹っ切れたような表情をしていた。この場面を、本人は「ゾンビモードに入った」と独特の言い回しで振り返っている。
ゾンビはホラー映画やテレビゲームなどで死体のままよみがえり、主人公に襲いかかるのが最大にして唯一の役割。彼らは余計なことを考えず、自分にできること、やるべきことを黙々と実行する。今回の「なおみ節」をひもとくと、つまりはそういうことだろう。