クライマーズ・アングルBACK NUMBER
登山届は遭難の「後」に役に立つ。
条例が増加中、報道には違和感。
text by
森山憲一Kenichi Moriyama
photograph byShinichi Yajima
posted2019/04/28 09:00
南アルプスの畑薙大吊橋登山口にある登山届ポスト。
“普通の”登山者を想定した条例。
これ以前に登山届の提出を義務づけた条例は、北アルプス剱岳(1966年施行)と谷川岳(1967年施行)のふたつしか存在しなかった。さらに、このふたつの条例は、危険度の高い区域や季節に挑戦するエキスパートを想定したもので、大多数の登山者にはほぼ関係ないものといえた。
一方で、2014年以降に施行されている一連の条例は、逆に“普通の”登山者を想定したものとなっているところが大きな違いだ。決まりとしては緩いものではあるものの、この5年ほどの間で、登山届提出が求められる山が急速に増えてきているのが、日本の登山の現状なのである。
なぜ登山届の義務化が進んでいる?
この背景には山岳遭難の増加がある。国内の山岳遭難は平成に入ってから一貫して増加を続けており、2017年の遭難者数は3111人。30年前と比較すると約4倍である。
これには携帯電話の普及が大きく影響していると思われるので(昔は通報手段がなかったので記録に残らない)、そこは割り引いて考えないといけないが、少なくとも状況がよい方向に向かっているといえないことは確かだ。
そこに、2014年の御嶽山噴火事故が追い打ちをかけた。死亡・行方不明合わせて63人が犠牲になったこの事故では、当初、遭難者の確定に手間取り、事態の把握に時間がかかった。だれがどこに入山しているのかわかるデータがないのだから、時間がかかるのも当然だったのだ。
「登山届提出を義務化しよう」という気運には、こうした背景があり、この動きは、今後おそらく他のエリアにも波及していくものと思われる。