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51歳のプロアドベンチャーレーサー。
“鬼軍曹”田中正人、風まかせの人生。

posted2019/05/02 09:00

 
51歳のプロアドベンチャーレーサー。“鬼軍曹”田中正人、風まかせの人生。<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

世界でも珍しいプロアドベンチャーレーサーの田中正人。妻の靖惠さん、娘のあきらちゃんと。

text by

千葉弓子

千葉弓子Yumiko Chiba

PROFILE

photograph by

Nanae Suzuki

 こんなアスリート人生があってもいいんじゃないか……。

 マイナースポーツといえるアドベンチャーレースが、いま以上に知られていなかった1996年、田中正人は有機合成化学会社の研究職を辞めて、日本初の「プロアドベンチャーレーサー」になった。それから23年、51歳の田中は親子ほど年の離れたメンバーと今も“世界一”を目指している。

 アドベンチャーレースとは、手つかずの大自然を舞台にトレッキングやマウンテンバイク、シーカヤックなど複数の種目を行いながら、地図とコンパスを頼りにチェックポイントを通過して、数日かけてゴールを目指す競技だ。女性1名を含む4名でチームを組む。

 田中が率いるチームイーストウインドは年2回、国際大会に出場している。昨年は約550kmの南アフリカのレース『Expedition Africa』で9位、チリ・パタゴニアの『Patagonian Expedition Race』で3位の成績を残した。

 国際レースの中でもとりわけ自然環境が過酷といわれる後者のレースでは過去5回出場して、いずれもあと一歩のところで優勝に手が届いていない。このレースを制することこそ、チームの悲願だ。

エゴむき出しの、濃密な時間を共有。

「アドベンチャーレースは人間社会の縮図なんです。ルール上、メンバーは24時間一緒の状態が1週間近くも続きます。自然の中ではさまざまな困難が降りかかってきますから、みな心身ともに極限に達し、仲間を思いやる余裕がなくなって素が露呈してきます。自分には人として何が足りないのか、まざまざと突きつけられるわけです。

 じゃあ、その状況をどう乗り越えていくのか。それぞれがエゴをむき出しにしたまま険悪なムードで進むのか、お互いを鼓舞しながら、前向きに課題解決に取り組んでゴールを目指すのか……。人と人が深い部分でぶつかり合い、他では得られないような密度の濃い時間を過ごす。それがアドベンチャーレースの醍醐味です」(田中)

 ここ数年、リーダーの田中やレースの模様がTBS『クレイジージャーニー』やNHK-BS『グレートレース』などのテレビ番組で取り上げられ、チーム活動が少しずつ世の中に知られるようになってきた(一部の番組では田中は「鬼軍曹」というニックネームで呼ばれている)。その影響か、2017年は1名、2018年は2名、この3月には3名の20代新人がチームに加入。いずれも会社勤めを辞めて、イーストウインドの活動拠点である群馬県みなかみ町にやってきた。

「こんなに新人が入るのは、いままでになかったこと。苦節20数年にして、ようやく日の目を見るようになった気がします(笑)」

 だが高額な年俸をもらえる野球やサッカーと違い、結果が収入に結びつかないのがアドベンチャーレースの世界。田中はどうやって競技を継続してきたのだろうか。

【次ページ】 地図は読めても、人の心が読めない。

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