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51歳のプロアドベンチャーレーサー。
“鬼軍曹”田中正人、風まかせの人生。
text by
千葉弓子Yumiko Chiba
photograph byNanae Suzuki
posted2019/05/02 09:00
世界でも珍しいプロアドベンチャーレーサーの田中正人。妻の靖惠さん、娘のあきらちゃんと。
「実業団に」という申し出を断った理由。
支出面では毎年2回の海外遠征費の捻出も大変だ。オリンピック種目などのメジャースポーツとは異なり、メディアでの露出が少ないアドベンチャーレースへの支援は企業にとって広告的メリットは少ない。それでも、田中の情熱に対して金銭的な支援をしてくれる企業がいくつかある。ほかに個人支援もあり、足りない分の遠征費を自分たちで用意するという。
「アドベンチャーレースの場合、恵まれた環境に身を置けば世界で勝てるかというと、決してそうでもないと思うんです。過去には、ある企業に実業団としてチームまるごと支援してもらう機会もあったのですが、甘えた考えになってしまうからと見送りました。若いメンバーにも受け身ではなく、主体性を持って競技に取り組んで欲しい。理想はそれぞれが自力で稼ぎ出す力を持つことです」
現在、若手メンバーたちは夏はみなかみでラフティングガイドをし、冬はスキー場で仕事をしたり、アウトドアショップで働いたりして生計を立てている。
ここ数年で、ようやく活動が広く知られるようになってきたイーストウインド。チーム全体の経験値も含めて、まだまだ“世界一”への道のりは険しい。田中は5年10年先をどう思い描いているのだろう。
「若者を育てて、僕がいなくても海外レースでチームが活躍できるようになるのが目標ですね。メンバーの数がもっと増えて、イーストウインドが一軍、二軍みたいに構成できればいいなと思っています。実は、僕自身は現役にそれほどこだわっているわけじゃないんです。いまは選手兼監督のような立場ですけれど、第一線を退いてチーム環境を変化させたいとも思っています。その先の目標? マスターズチームをつくって国際レースに出場して、イーストウインドの一軍を脅かしたいな(笑)」
そしていつか、これまでの自分の経験をフィードバックできるような冒険学校をつくりたいという。
「あっ、でもなにか準備しているわけじゃないんですよ。あくまで漠然とした夢です(笑)」
レースでの地図読みは完璧でも、人生のナビゲーションはどこか風まかせ。日本初のプロアドベンチャーレーサーとしての道を切り開き、50代でもいまなお競技を続けられる理由は、こんなメンタリティにあるのかもしれない。