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酒井高徳が悩み抜いて選んだ道。
2つのルーツと、代表を退く決断。
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byAFLO
posted2019/04/24 07:00
熱心なサポーターと喜びを分かち合う酒井高徳。代表から去った後もクラブに欠かせない選手として力を発揮している。
日本人である自分を強く感じた。
ドイツで暮らし、ドイツの文化やドイツ人の精神性などを理解すればするほど、「日本人である自分」を強く感じたという。
「ドイツへ来てから、サッカーにおいて苦しい日々もたくさんありました。試合に出られないこと、腐ってしまったこと、残留争い……そんなときに僕を支えてくれたのは、日本人であることでした。『自分を律するプロであること』、『他人を理解し、チームのことを考えること』、『歯車として組織を支えること』、『他人を思いやる気持ち』といった、素晴らしいメンタリティを大切にするスタンスが拠り所になることが多かった」
ドイツへ渡り7シーズン目を迎えた酒井だが、シュツットガルトからハンブルガーSVへ移籍しても、幾度となく監督がかわっても、出場機会を失うことはなかった。昨シーズンまでの記録を見れば、6シーズン半で170試合に出場している。
その理由について聞くと、こう返ってきた。
「僕には武器がないから」
強力な武器を持っていないからこそ、監督から求められる仕事を完遂する。それしか生き残る術はなかったが、対応力を評価されて起用が続いた。そんなフレキシブルさもまた酒井特有の能力なのかもしれない。
酒井宏樹の成長スピードと自分。
「試合に出続けられている」という自負とともに、毎シーズン残留争いを強いられてきたクラブの一員としての自責の念もある。そして残留争いのシビアな状況では、成長に必須な「挑戦的なプレー」ができていない焦りもあった。その想いは、マルセイユへ移籍した酒井宏樹の成長スピードに触れたことで、さらに強くなった。
「マルセイユへ行った宏樹は、自信を漲らせてとても成長していると思う。レベルの高いチームメイトたちとの日々の経験が宏樹を成長させているんだと感じました。そうしたとき、残留争いでメンタルは強くなったと思うけれど、自分はどれほど成長できているのかと思わずにはいられなかった」
ハンブルガーSVに対するあつい忠誠心は変わらない。また昨季は歴史上初めて、クラブを降格させてしまった責任を強く抱いてもいる。それでも「成長したい」という選手としての欲は消えないのだろう。