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楢崎智亜の五輪金メダルに待った?
チェコの天才クライマーが復活参戦。
text by
森山憲一Kenichi Moriyama
photograph byJMSCA
posted2019/04/18 10:30
ボルダリング・ワールドカップの2019年開幕戦は、チェコのアダム・オンドラが優勝。日本の楢崎智亜(左)が2位、杉本怜が3位。
天才少年からオールラウンダーへ。
もともとオンドラは、岩場でのパフォーマンスで注目された。15歳で当時の世界最高難度ルートを登って天才少年と騒がれ、以降、世界最高難度記録を何度も塗り替え、現在ではだれも追いつけない独走状態にある。
競技にも積極的に出場し、2009年には16歳で早くもワールドカップのリード種目を年間制覇。その後もワールドカップチャンピオンになること3回、世界選手権も3度制覇している。
ところが先に書いたように、2016年以降は競技の場にあまり顔を見せなくなった。とはいえ、登ることを休んでいたわけではない。この3年間、オンドラは岩場に専念していたのだ。2017年には、それまで4年かけてトライし続けていたノルウェーのルートについに成功。またしても世界最高難度を更新した。
その前年の2016年には、アメリカ・ヨセミテ渓谷にある高さ1000mの大岩壁「エルキャピタン」も登っている。これはもはやスポーツというよりアドベンチャーやアルピニズムというべきパフォーマンスで、初登者はふたりで19日間もかかっている。天才オンドラはそこをひとりで、わずか8日間で登りきってしまった。
完全に岩場に軸足をおいたこの3年間だったが、合間に出場した競技でもほぼすべてで決勝に進出。競技で活躍するなら専用のトレーニングをしないと通用しない現代において、これは驚異的なことである。これほどまでに幅広く、底知れない才能をもったクライマーはオンドラ以外には存在しない。
注目は8月の世界選手権。
このオンドラの鮮やかなカムバックによって、オリンピック金メダルの行方はまったくわからなくなった。楢崎が万全の調子で真っ向勝負をかけたとしても、オンドラに勝てるかどうかはやってみないとわからない。
現段階では、オンドラにも弱点はある。オリンピックは、リード・ボルダリング・スピード3種目の総合点で争う独自のルールで行なわれる。オンドラはスピード種目を苦手としており、そこは楢崎が大きくリードしているところだ。
が、あと1年、オンドラが本気でスピード種目のトレーニングを積めば、あっという間にその差を詰めてきそうな気がする。
今年は8月に東京・八王子で世界選手権もある。これは3種目総合のオリンピックフォーマットで行なわれる大会。そこでオンドラがどんなパフォーマンスを見せるかというのは、先行きを占う大きな判断材料になるだろう。