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楢崎智亜の五輪金メダルに待った?
チェコの天才クライマーが復活参戦。
text by
森山憲一Kenichi Moriyama
photograph byJMSCA
posted2019/04/18 10:30
ボルダリング・ワールドカップの2019年開幕戦は、チェコのアダム・オンドラが優勝。日本の楢崎智亜(左)が2位、杉本怜が3位。
決勝でただひとり、すべて完登。
そこで今回のマイリンゲン大会である。
オンドラは初戦からワールドカップに参戦してきた。しかもその勝ちっぷりが圧巻であった。予選から好調を維持し、決勝の4課題をただひとり、すべて完登。しかも、オンドラ以外の5選手がだれも登れなかった最終課題は、初見で一撃している。文句のつけようがない完勝。
2019年シーズン、オンドラは間違いなく競技にターゲットを定めてきた。眠れる獅子がついに動き出したのだ。
競技、岩場両方で戦える最後の怪物。
ところで、現在、クライミングは大きな分岐点に立っていると私は考えている。
かつて登山のいち技術だった岩登りが登山から独立して「クライミング」というひとつのジャンルになった。同じように、現在、クライミングから競技が独立して、「スポーツクライミング」という新しいスポーツが生まれようとしていると思う。
同じく登山のいち技術だったスキーが競技性を追求して一大スポーツジャンルとなっていった過程を、いま、クライミングがたどろうとしている。とくに、オリンピック競技化が決まったこの数年でその傾向には拍車がかかり、スポーツクライミングは独自の進化を遂げつつある。
以前は、競技で優勝するクライマーと岩場で活躍するクライマーは明確に分かれてはいなかった。たとえば平山ユージがその代表格だ。1998年と2000年にワールドカップチャンピオンを獲得した彼は、同じころ、岩場でも世界のクライミング史に残るような重要な登攀を行なっている。
それはいまや完全に分化した。スポーツクライマーは基本的に人工壁しか登らないし、岩場を主戦場とするクライマーが競技に出場することもほとんどない。それぞれは高度に先鋭化され、岩場の世界最高難度ルートはワールドカップチャンピオンでも容易には登れないし、岩場で高難度ルートを登るクライマーが競技に出場しても決勝に残ることすら難しい。
しかしまだひとりだけ例外がいる。競技と岩場、どちらでも世界トップで戦える、おそらくは歴史上最後の人物。それがアダム・オンドラなのである。