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複合W杯で驚異の8年連続3位以内。
渡部暁斗、モチベーションの源。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byGetty Images
posted2019/04/01 08:00
渡部は過去8シーズンのワールドカップ総合成績で、3位3回、2位4回、優勝1回と安定した好成績を記録している。
W杯総合優勝して思ったこと。
昨シーズン、平昌五輪での銀メダルにとどまらず、ワールドカップでは総合優勝を果たし、世界のトップとなった。
渡部はその優勝に触れつつ、こう語っていたことを覚えている。
「ワールドカップの総合成績は、選手や関係者にはすごさや意味は分かるし、自分の中でもそれがいちばんという揺るぎないものがあります。自分が納得するためというか、納得させるためには必要です」
話はそこにとどまらなかった。
「でも(広く)対外的に伝わるものではない。さらにほかの人たちへと伝えるには、その成績だけではなかったのかなという、漠然とした感覚があります」
競技の世界を超えて、その価値が広く伝わっていないことがもどかしかった。これは渡部だけの思いにとどまらないかもしれない。
スキー競技は欧米、特にヨーロッパでは人気競技だ。世界で活躍する選手はスターとして扱われるし、待遇や環境もそれ相応のレベルにある。日本の選手も例外ではなく、活躍すれば、同じように海外から脚光を浴びる。
欧州の方が渡部の認知度は高い?
一方、日本国内における注目の度合いは大きく異なる。
例えばジャンプの葛西紀明が国内で広く注目されるようになったのは、ソチ五輪のラージヒルで銀メダルを獲得したのが契機だったが、海外ではそれ以前から注目と人気を誇る存在だった。2010年のバンクーバー五輪の時点で、数十名の海外メディアが葛西を取り囲むほどだったのだ。
そして渡部の認知度も、ヨーロッパの方が圧倒的に高いのではないかと感じる。
渡部もそれを意識し、日本国内に向けてのアピールに関心を寄せていた。平昌五輪の試合の前に語った、「テレビのチャンネルを変えられないような試合をしたい」という言葉も象徴的だった。
そして平昌では銀メダルを獲得した。でもノルディック・コンバインドの地位、注目度などの環境には大きな変化は起こらなかった。
「多くの方に知ってもらうためにはメダルの色が大事かなと思いました」