ファイターズ広報、記す。BACK NUMBER
外国人選手の成否握るキーマン、
プロ野球の「通訳」という仕事。
text by
高山通史Michifumi Takayama
photograph byKyodo News
posted2019/03/04 17:00
今季も先発の柱と期待されるマルティネス(右)と、昨季まで在籍したレアード(左)はともに日本の生活にも馴染み、持てる力を十分に発揮。
時には「出産」に立ち会ったことも……。
シーズン中は、さらにハードになるという。ナイターでの遠征時の行動パターンを、J広報に聞いてみた。試合は午後6時開始で、チーム宿舎出発は午後3時30分過ぎがオーソドックスなパターン。私も含めて、日中はデスクワークに勤しむこともあるが、プライベートな時間も過ごしている。
G通訳はどうか、というと緊迫感に満ち満ちている。午前7時には起床してシャワーを浴び、いつ外出しても良いように私服に着替え、髪型もセットをするのだという。外国人選手から、いつでも買い物などの誘い、要請を受けられるように身支度をするのだそうだ。
それから、着信等があった場合すぐに分かるように携帯電話を傍らに置いて、私服のまま「二度寝」をするのだそうだ。連絡があるのかどうかは分からないが、それでも万全の準備を毎日、整えている。経費の精算、ビザ取得、航空券の手配、また外国人選手の家族や関係者のケアなど適宜柔軟に、そしてベストの対応をする。自分のためではなく、すべて寄り添う選手のためである。
J通訳は着任1年目の昨年、しびれる思いをした。
マルティネス投手の夫人が、5月に出産予定だった。夫に見守られて産みたいとの意向があり、米国へと帰国せずに日本で出産したいと希望していた。米国での主流は無痛分娩で、それに対応できそうなクリニックを探し回ったのだという。5~6施設ほど調査をして、1つに絞り込んだ。
独身のG広報にとっては、もちろん経験も、想像もできない作業だったことは、容易に推察できる。それでも、1つの喜びがあったという。マルティネス夫人が、その年を終えるころ、こう伝えてきたという。
「私が日本で一番美味しかった和食は、産後に病院で食べた日本食よ。本当に美味しかったわ」。苦労が報われた、という。
別れをもって、任務をまっとうする仕事。
そばで見ていても、非常に特殊な業務である。数値化しづらく、何をもって成果とするのか。それを実感する瞬間はあるのか。
通訳のやりがいとは――
ともにお立ち台に立った時、また勝利のハイタッチを交わした時……。いろいろと、幸せを感じる場面は推察できるが、意外な答えがG広報から返ってきたのだ。昨シーズンまで在籍したレアード、トンキンの両選手の退団が決まり、しばらくしてからのことだった。
「今まで本当にありがとう。よくしてもらって感謝をしている」
別れの時、ようやく通訳の任務をまっとうするのだろう。寂しさの対極に、充足感がある険しい仕事である。
この春、ファイターズの通訳陣は、また新しい外国人たちとの出会いに恵まれた。いつか訪れる必然の別れまで、全身全霊で尽くす。