Number ExBACK NUMBER
シジマールが語る日本人GK問題。
「人材はいる。必要なのは愛なんだ」
text by
松本宣昭Yoshiaki Matsumoto
photograph byAsami Enomoto
posted2019/03/03 11:30
日本中が夢中だったシジマールの“クモ男”ポーズ。今は藤枝MYFCで次世代のGK育成に取り組んでいる。
信頼関係ができれば、選手に気持ちは伝わる。
ここでシジマールから、逆質問が飛んだ。
「今日、僕はみなさんがグラウンドに着いてすぐ、『取材に来た方たちだろうな』と気づきました。みなさんはグラウンドに着いて、最初に何を見ましたか?」
シジマールさんと、GKの選手たちの練習です。
「そうです。だから僕も気づいたんです。GKは誰よりも早く練習場に来て、誰よりも遅く練習場から帰ります。今日も、14時20分から練習を始めました。全体練習が終われば、最後まで居残り練習をする。その上で、試合でミスをすれば批判されてしまう。精神的にもきついポジションです。
だからこそ、GKコーチが『君たちが一番なんだ』という愛情を示して、自信を持ってプレーさせなければならない。厳しい練習だけでも、愛情だけでもダメです。厳しい練習の中でコミュニケーションを怠らず、指導者が選手を守る。ファミリーとしての一体感をつくることで、柏レイソルでも、ヴィッセル神戸でも素晴らしいGKが育ちました。
そういう信頼関係ができれば、多くの言葉はなくとも、選手に気持ちは伝わります。タイのポートFCでGKコーチを務めたときには、言葉で苦労しました。僕は日本語ならば分かりますが、タイ語は分かりませんからね。それでも、当時指導した選手たちから今でもメールが届きます。現在の藤枝MYFCのGK陣も、ファミリーとして良い雰囲気ができています」
シジマールからは、愛が溢れている。
シジマールは幼い頃からGKのポジションが大好きで、GKとしてプロになることを目指し、実現させた。一方、日本では自ら進んでGKを目指す子どもたちは少ないように感じる。
「日本でGKというポジションに人気がない。この状況を改善するには、メディアのみなさんの協力も必要になると思います。日本のメディアでは、ゴールを決めた選手ばかりが大きく扱われます。良い守備をしたGKやDFがヒーローになることはほとんどない。良いセーブをしたGKをもっと取り上げてもらえれば、子どもたちにとっても憧れの対象になると思います。
そしてGKを経験したことのある人が子どもたちに対して、イベントや講演でこのポジションの魅力をもっと発信する。みんなで力を合わせて、こういう作業を積み重ねることで、日本全体でのGKのレベルアップにつながると思うんです」
インタビューを終えてお礼を伝えると、“クモ男”の長い腕が伸びてきた。その大きな両手で、筆者の手をがっちりキャッチ。練習中に見せる、あのビッグスマイルとともに真っすぐ目を見て一言。
「アリガトウゴザイマシタ。マタヨロシクオネガイシマス」
なるほど。シジマールからは、愛が溢れている。