松岡修造のパラリンピック一直線!BACK NUMBER
パラ・パワーリフター大堂秀樹。
「コーラと赤いきつね」の謎とは?
text by
松岡修造Shuzo Matsuoka
photograph byYuki Suenaga
posted2019/02/26 07:00
パラ・パワーリフティングの日本代表選手・大堂秀樹のトレーニングルームにて。
健常者と何が違うんでしょう?
松岡「ちょっと特別な靴のように見えましたが……。大堂さんがやられているのはパラ・パワーリフティングですね。健常者のパワーリフティングと、何が違うんでしょう」
大堂「基本的なルールは同じです。ただ、健常者は足を地面につけた姿勢でベンチプレス台を使用するけど、僕らは足の踏ん張りが利かないので台上に全身を載せて試技を行う。だから台の幅も健常者のものより広く作られています」
松岡「だから足にベルトを巻いて、台の上で体を固定しているんですね」
大堂「このストラップをグッと締めることで、下肢に障害があっても力を発揮できる。純粋に上半身の力だけで持ち上げているとも言えます」
松岡「なるほど。でも、どれだけの重さを持ち上げられるかを競うのに、パラと健常者の区別をつける必要がないようにも思えます。台が違うだけで条件は同じじゃないですか」
大堂「そうなんです。実際に僕がこの競技を始めたときも、パラじゃなくて健常者の大会に車椅子で出ているんですよ。パラは入場からスタートまで2分の準備時間があるけど、健常者の大会だとそこを1分以内にやらないといけない。そうしたルールの違いを守りさえすれば、出られる大会は実は多いんです」
松岡「非常にシンプルな競技だし、基本的なルールは一緒なんですね」
大堂「一緒です。今年の健常者の世界大会でも、パラの選手が出て優勝していますから。それも世界記録に近い重さのバーベルを上げて。パラの世界記録が健常者の記録を上回っている階級だってあります」
「コカ・コーラは世界中で同じ味だから」
松岡さんは心底驚いている様子だ。下半身の踏ん張りが利かないのに、なぜ上半身の力だけで健常者の記録を上回ることができるのか。パラ・パワーリフティングの真髄に迫る前に、松岡さんは大堂さんの車椅子のドリンクホルダーに目を向けた。赤くて小さいボトル。コカ・コーラだ。大堂さんは美味しそうに飲んでいる。
松岡「コーラですか。美味しいですけど、練習中も飲んでましたよね?」
大堂「でも、これって世界中のどこでも手に入るし、同じ味じゃないですか。安心して飲めますよね。僕は、このコーラもそうですが、けっこうルーティンが決まっているんです。たとえば試合へ行く前は、朝起きて必ず『赤いきつね』を食べるんです」
松岡「赤いきつね? インスタントの。余計に意味がわからないんですが……」
大堂「なぜその習慣が始まったかというと……1999年だったかな、初めて出た国際大会がきっかけでした。ニュージーランドだったんですけど、ご飯が合わないんです。イギリスもそうだったけど、どうも僕には合わなくて……。そこで食べられるものを探していたら現地のお弁当屋さんに赤いきつねが売られていたんです。それを試合前に食べたらすごく調子が良くて、そこからはもう、赤いきつねオンリーです。国際大会に忘れていこうものなら調子が出ないです」