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<海図なき侍ジャパン>
プレミア12が残した苦い教訓。
text by

鷲田康Yasushi Washida
photograph byNaoya Sanuki
posted2015/12/10 06:00

8回、9回は則本と決めていた小久保監督だったが、無死満塁のピンチを迎えて急遽交代を決断。この後に登板したのは、松井だった。
野球の新しい国際大会「プレミア12」は、世界的にはまだまだ未成熟な大会である。MLBはメジャー40人枠の選手の出場を禁じ、中南米ではウインター・リーグが開催されている。多くのチームは国の主力選手が参加せず、トップ選手でチーム構成できたのは日本と韓国、台湾ぐらいだった。
ただ、侍ジャパンを常設化して「世界の中での日本野球」を事業化した日本野球機構(NPB)にとっては、新たな道を切り開く意義ある大会であった。
大きかったのは宿敵・韓国との開幕戦で、先発の大谷翔平投手(日本ハム)が“本気”のピッチングを見せたことである。
「昨日の夜は緊張しているのが分かった」
日の丸の重みをこう語った大谷が、いきなりMAX161kmを出して6回を完封した。この熱がテレビを通じて、普段はあまり野球中継を観ない層の人々にも伝わった。大谷だけではない。中田翔内野手(日本ハム)や筒香嘉智外野手(DeNA)ら選手一人ひとりの“本気”が、侍ジャパンというコンテンツの何物にも代えがたい魅力を見せつけることにつながったのである。
加えて寄せ集めと言われた各国代表の牙の剥き方も、試合の面白さを倍加させた。
台湾での1次ラウンド。メキシコ戦は9回に5対5に追いつかれた裏に、中田のサヨナラ打での勝利だった。ドミニカ戦も7回に追いつかれて8回に再び中田が決勝打を放つと、米国戦は一転、打線が爆発して2本塁打10点の快勝。ベネズエラ戦は9回に逆転を許しながら、再逆転のサヨナラ勝ちと、とにかく手に汗を握る試合が続いた。
こちらは雑誌『Number』の掲載記事です。
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