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「燃え尽きた」シーズンを経てなお、
黒田博樹が現役続行を選択した理由。
posted2015/12/10 11:00
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Hideki Sugiyama
正直、引退すると覚悟していた――。
黒田博樹の去就が明らかとならないまま12月を迎えた。
「広島残留か、米国復帰か」ではない。選択肢は「現役続行か、引退か」――。
今年を最後のシーズンとばかりに燃え尽きようとしていた姿は、引退へと傾いているように感じられた。
黒田はシーズン中、準備段階から他の投手とは異なる熱を帯びる。
メジャー時代から続ける、打者の特徴や自身の配球と結果を記した「黒田ノート」を日本でも継続。スコアラーに積極的に情報を聞きながらペンを走らせる。
登板日が近づけば、臨戦モードに切り替える。勝利への強い執念が感じられる言動に、球団内部の人間も「登板日が近づくと僕らでも話しかけにくい。登板前日からは(話しかけるのが)無理です」と明かす。
勝利への執念はマウンド上でもたびたび見られた。
8月18日の中日戦では、平田の頭上を抜けそうなライナー性の強い打球に右手を伸ばし、ボールが手のひらを直撃。一度ベンチで治療を施してマウンドに戻るも、まだ右手は痙攣していた。結局4回まで投げた。打席ではバットを振ることさえできなかった。
中日戦から登板2試合目のDeNA戦でも右手を出した。専門医による診断に問題はなかったが、「そうは簡単にやめさせてくれないね」と、冗談とも本気とも取れるコメントを残した。
黒田博樹は、普通の物差しでは測れない。
気力が40歳の体を支えた。
「誰かがやらないといけない。この時期、痛いとかかゆいとか言っていられない」と、シーズン終盤の9月には中4日で2回先発。大事な9月以降、6試合に先発して3つの白星を積み重ねた。右足くるぶし炎症など2度の登録抹消もあり、まるで最後の力を振り絞っているようだった。
さらに8回1/3、126球を投げた10月4日の阪神戦から、中2日で最終戦のブルペン待機を直訴した。登板機会はなかったが、仮に登板してケガで引退を余儀なくされても本望だったのだろう。
8年ぶりに復帰した日本で黒田が残した成績は、26試合(169回2/3)11勝8敗、防御率2.55。
数字だけを見れば、誰も現役を引退するとは思わない。反対にこれだけの成績を残して引退は不自然だ。「広島残留か、米国復帰か」という勘違いも不思議ではない。
ただ、黒田博樹という人間はそんな物差しで測れるような男ではない。何せ、昨年20億円超のオファーを蹴って、年俸1/5の古巣に帰ってきた男だ。