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大坂なおみとサーシャの「別れ」。
女子テニス特有のコーチの役割。
 

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山口奈緒美

山口奈緒美Naomi Yamaguchi

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photograph byGetty Images

posted2019/02/20 11:30

大坂なおみとサーシャの「別れ」。女子テニス特有のコーチの役割。<Number Web> photograph by Getty Images

大坂なおみとサーシャ・バインのコンビが2つのメジャータイトルを取ったことの価値は、何があっても薄れない。

結びつきの強さと脆さは諸刃の剣。

 国境など無関係に、くっついたり、別れたり、奪い合ったり、ヨリが戻ったり――そんなことは女子テニス界では日常茶飯事だ。その傾向は男子以上に強い。

 技術や戦術を授けるコーチ本来の能力以前に、相性の良さや新鮮さ、信頼感といったメンタル面への効果が重んじられる。それゆえ、結びつきの強さと脆さは諸刃の剣だ。

 ハレプと別れたケーヒルは、ハレプが昨年の全仏オープンでグランドスラム初優勝を果たすまでに3度敗れた決勝戦のうちの、2度目、3度目を間近で見ている。のちにこんな話を打ち明けた。

「グランドスラムを獲るために妨げになっているのが僕なのか、彼女自身の問題なのかはわからなかったけれど、彼女が僕ではなく別の誰かの声を求めているのではという問いかけは、自分の中で繰り返していたよ。彼女にとって起爆剤になるなら、最後の手段としてそれ(コーチを退くこと)も考えていた」

コーチをベンチに呼ぶシーンは見もの。

 たった1人でコートに立ち、何時間も戦い抜かなくてはならないテニスにおいて選手は、特に女子選手は、自分を支え、励まし、勇気づける“声”を常に求めている。そして時には、コーチの能力とは関係なくただシンプルに新鮮な“声”を求める。

 より高いステージに到達したとき、あるいは何かにつまずいたとき。ちなみにケーヒルのコーチ経験は豊富で、中でもレイトン・ヒューイットを史上最年少世界1位に導き、アンドレ・アガシを当時史上最年長世界1位に復活させた実績で知られる。数々の女子のトップ選手のコーチも務めてきた名コーチだ。

“声”を求める女子選手とコーチとの密接な関係は、WTAツアーのみが採用しているオンコートでのコーチングにも見ることができる。選手は試合中にコーチをベンチに呼んでアドバイスを聞くことができる。原則として1セットに1回だが、それ以外に対戦相手がトイレットブレークや治療のための休憩をとった場合も許されている。

 その際、コーチは小型マイクをつけており、中継するテレビはその会話を拾って視聴者に届ける。WTAはいわばこれを“ショー”の一部として売りにしているのだ。どこの言語で話そうがかまわないので全て理解できるわけではないが、プロのコーチはプロの選手にどういうアドバイスをするのか、どんなやりとりが行なわれるのかは、ファンには興味深い。

【次ページ】 あくまでも、選手が雇用主である。

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